イギリス(英国)市場調査ガイド|費用相場・進め方と「UK/GB」の違い、定性調査の実務ポイント【2026年最新】
イギリス(英国)市場調査とは、イギリスの消費者や企業を対象に、市場規模、ニーズ、ブランド認知、購買行動などを把握するために行うリサーチです。人口約6,950万人の英語圏の先進国で、EC・デジタルサービスが成熟していることから、欧州展開の足がかりやテストマーケットとして選ばれることが多い市場です。
イギリスは市場調査の歴史が長く、業界の行動規範や品質基準が整った「調査先進国」でもあります。一方で、「UK」と「GB」の対象範囲の違い、定性調査のリクルートの慣習、EU離脱後の個人情報保護制度など、日本とは異なる前提を押さえておく必要があります。本記事では、イプソス英国チームの知見をもとに、イギリス市場調査の進め方、費用、注意点を解説します。
この記事でわかること
- イギリスの基本情報と日本との関係
- 調査設計の前に知っておきたい「UK」と「GB」の違い
- イギリスの定量調査:手法とサンプル設計
- イギリスの定性調査:実務のポイント
- 個人情報保護と業界の行動規範
- イギリス市場調査の費用相場
- イギリス市場調査の進め方
- よくある失敗と対策
- よくある質問(FAQ)
イギリスの基本情報と日本との関係
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 人口 | 約6,950万人(2025年6月末時点の暫定推計) |
| 構成国 | イングランド(約5,880万人)、スコットランド、ウェールズ(約318万人)、北アイルランドの4つの国からなる |
| 主要都市 | ロンドン、マンチェスター、バーミンガム、エディンバラ、グラスゴー、カーディフ、ベルファストなど |
| 日本との時差 | 日本より9時間遅い(夏時間期間は8時間) |
| 日本との経済関係 | 2021年1月1日に日英包括的経済連携協定(日英EPA)が発効。2024年12月にはイギリスのCPTPP加入議定書が発効 |
出所:英国国家統計局(ONS)、外務省、農林水産省
調査設計の前に知っておきたい「UK」と「GB」の違い
イギリスで調査を行う際、まず確認したいのが対象範囲です。「GB(グレートブリテン)」はイングランド、スコットランド、ウェールズの3か国を指し、「UK(連合王国)」はこれに北アイルランドを加えた4か国を指します。
イギリスの調査では、GBを対象とする調査も一般的です。たとえば既製のオムニバス調査にはGBを標準とするものがあり、北アイルランドを含めたい場合はUKサンプルを指定する必要があります。日本側で「イギリス全体」と考えていても、調査会社との間で対象範囲の認識がずれることがあるため、企画の段階で「UKかGBか」を明確にしておきましょう。
イギリスの定量調査:手法とサンプル設計
無作為抽出(確率標本)と割当法(非確率標本)の使い分け
イギリスでは、政府機関の大規模な社会調査を中心に、無作為抽出による調査が根付いています。イギリスには住民登録簿がないため、一般の人を対象とした無作為抽出では、ロイヤルメールが管理する全住所のリスト「Postcode Address File(PAF)」をサンプル台帳として使うのが一般的です。
一方、企業のマーケティング調査の多くは、時間や費用の面から、オンラインパネルなどを使った割当法(クォータサンプリング)で行われます。イギリスの16歳以上を対象とするオンライン調査では、性年代、居住地域、就業状況で割付けを行い、学歴や社会経済階層(ソーシャルグレード)の構成にも注意を払うのが標準的です。
主な調査手法
| 手法 | 特徴 | 向いている目的 |
|---|---|---|
| オンライン調査 | インターネット普及率が世界でも特に高く、農村部や低所得層を含めて幅広い層をカバーできる | 市場規模の把握、ブランド認知、コンセプト評価、U&A調査 |
| オムニバス調査 | 複数のクライアントが1つの調査に設問を相乗りする方式。少ない設問を低コスト・短期間で聴取できる | 認知率の把握、簡単な意識確認、トラッキング |
| 無作為抽出型オンラインパネル | 住所から無作為に抽出した人でパネルを構成する方式。イプソスは2020年に「UK KnowledgePanel」を立ち上げ | 代表性が重視される調査、少数層の分析 |
| 対面調査(CAPI) | 自宅訪問や街頭でタブレットを使って聴取。高齢層やオンラインでは届きにくい層にもアプローチできる | 公的統計、全国代表性を重視する大規模調査 |
| 電話調査(CATI) | 短期間での聴取や、BtoB調査に活用しやすい | BtoB調査、世論調査 |
| 郵送・プッシュ・トゥ・ウェブ調査 | 郵便で調査依頼を送り、オンラインまたは紙で回答してもらう方式 | 大規模な公的調査、住所ベースの調査 |
BtoB調査のサンプル台帳
イギリスでの企業調査では、Dun & BradstreetやExperianなどの商用データベースのほか、英国国家統計局の事業所登録簿(IDBR)などの公的な台帳も活用されます。台帳によってカバー率や連絡先情報の質、費用が異なるため、調査目的に合わせて選ぶことが重要です。
イギリスの定性調査:実務のポイント
イギリスで定性調査を行う際は、日本とは異なるリクルートや運営の慣習があります。イプソス英国チームの実務経験から、押さえておきたいポイントを紹介します。
| 項目 | イギリスでの一般的な慣習 |
|---|---|
| 所要時間 | デプスインタビューは約1時間、グループインタビューは90〜120分、ワークショップは3時間〜1日 |
| 実施時間帯 | 有職者が対象の場合は18時以降が基本。大都市では18時30分開始にすると参加しやすい |
| 謝礼の目安 | デプスインタビュー・グループインタビューは1人70〜90ポンド程度、ワークショップは100ポンド以上。事前課題を設ける場合は1人35ポンド程度を追加。謝礼はデジタルで支払うのが一般的 |
| リクルート人数 | 当日の欠席に備え、8名のグループなら10名を招待するのが一般的。前日に参加確認の連絡を入れる |
| 年齢の区切り | 18〜34歳、35〜59歳、60歳以上が標準的。テーマによっては年齢よりライフステージで分けるほうが有効 |
| 会場 | 市中心部のホテルの会議室や、ミラールーム付きの専用施設で実施することが多い |
日程の組み方で注意したいこと
祝日(バンクホリデー)やその前後は参加率が下がるため、避けるのが基本です。子どものいる親を対象とする場合は、学校の休み期間(学期途中の短い休みである「ハーフターム」を含む)も確認しておきましょう。また、地下鉄や鉄道のストライキ、悪天候(あるいは好天)も参加率に大きく影響するため、直前の日程変更や参加確認の強化が必要になることがあります。週末の実施は、大規模なワークショップやエスノグラフィを除いて避けるのが一般的です。
本音を引き出すための工夫
お金や社会階層など、人前で話しにくいテーマでは、冒頭のアイスブレイクで場を和ませることが重要です。付箋にキーワードを書いてもらう方法や、投影法を使うと、匿名性が保たれて意見を出しやすくなります。また、日記や写真撮影などの事前課題を設けると、当日すぐに本題に入ることができます。
インタビューは録音・録画して記録するのが一般的ですが、事前に参加者の同意を得る必要があります。日本からオンラインで視聴し、同時通訳を付けることも可能です。
個人情報保護と業界の行動規範
イギリスはEU離脱後、EUのGDPRをもとにした「UK GDPR」と「2018年データ保護法(Data Protection Act 2018)」による独自の制度を運用しています。イギリスで個人データを扱う調査は、これらのルールに沿って行う必要があります。
業界の行動規範としては、イギリスの市場調査業界の専門団体である市場調査協会(MRS:Market Research Society)の「行動規範(Code of Conduct)」が広く適用されています。また、調査結果を公表する世論調査には、英国世論調査評議会(British Polling Council)の開示ルールも関係します。調査会社を選ぶ際は、MRSの規範に沿った運用や、市場調査の国際規格ISO 20252、情報セキュリティの国際規格ISO 27001などの認証の有無を確認しておくと安心です。
イギリス市場調査の費用相場
イギリスの調査費用は、人件費や謝礼の水準から、アジアの新興国と比べて高く、アメリカと同程度の水準になる傾向があります。定性調査の謝礼は1人70〜90ポンド程度が目安です。
実際の費用は、対象者条件、設問数、手法、納品物によって変わります。海外調査の費用構造については「海外市場調査とは?」「海外アンケート調査とは?」もご覧ください。
イギリス市場調査の進め方
- 調査目的と対象範囲の決定:意思決定に直結する問いを明確にし、対象範囲をUKとするかGBとするかを決めます。
- 調査手法とサンプル設計:目的と予算に応じて、オンライン調査、オムニバス調査、定性調査などを選び、性年代・地域・就業状況などで割付けを設計します。
- 調査票の作成とローカライズ:英語への翻訳に加え、イギリス英語の表現や、現地の商品・価格帯に合わせた選択肢に調整します。
- 実査スケジュールの調整:祝日、学校の休み、クリスマス期間などを避けて実査期間を設定します。
- 実査・分析・レポーティング:UK GDPRとMRSの行動規範に沿って実査を行い、地域や社会経済階層などのセグメント別に分析します。
よくある失敗と対策
| よくある失敗 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 北アイルランドが対象に含まれていなかった | 「イギリス」の範囲を確認せずにGBのサンプルで調査した | 企画の段階でUKかGBかを明確にする |
| グループインタビューの参加者が揃わない | 欠席を見込んだ多めのリクルートや前日確認を行っていない | 8名なら10名を招待し、前日に参加確認を行う |
| 定性調査の参加率が想定より低い | 祝日の前後や学校の休み期間、ストライキの日程と重なった | 祝日や学校の休みを避けて日程を組み、ストライキの情報を事前に確認する |
| ロンドンの結果を全国の傾向と誤解する | ロンドンだけで調査を実施している | 地域別の割付けを行い、地方都市や構成国ごとの違いを確認する |
| 否定的な意見を見落とす | 控えめで婉曲な表現を、そのまま肯定的な評価と受け取っている | 評価の理由を深掘りし、現地のリサーチャーと解釈をすり合わせる |
よくある質問(FAQ)
Q. イギリスの調査で「UK」と「GB」はどう違いますか?
A. GB(グレートブリテン)はイングランド、スコットランド、ウェールズの3か国、UK(連合王国)はこれに北アイルランドを加えた4か国を指します。イギリスの調査ではGBを対象とするものも一般的なため、北アイルランドを含めたい場合は、企画の段階でUKを対象とすることを明確にしておく必要があります。
Q. イギリスのグループインタビューの謝礼はどのくらいですか?
A. デプスインタビューやグループインタビューでは1人70〜90ポンド程度、ワークショップでは100ポンド以上が目安です。対象者の条件やテーマによって変わり、謝礼はデジタルで支払うのが一般的です。
Q. イギリスで定性調査を行う時間帯は?
A. 有職者を対象とする場合は18時以降が基本で、大都市では18時30分開始にすると参加しやすくなります。週末の実施は、大規模なワークショップやエスノグラフィを除いて一般的ではありません。
Q. EU離脱後、イギリスにGDPRは適用されますか?
A. イギリスはEU離脱後、EUのGDPRをもとにした「UK GDPR」と「2018年データ保護法」による独自の制度を運用しています。内容はEUのGDPRと近いものの、別の制度として扱われるため、イギリスとEUの両方で調査を行う場合はそれぞれへの対応が必要です。
Q. 少ない設問を低コストで聴取する方法はありますか?
A. 複数のクライアントが1つの調査に設問を相乗りする「オムニバス調査」が適しています。認知率の把握や簡単な意識確認などに向いており、単独で調査を行うよりも低コスト・短期間で結果を得られます。
まとめ:イギリス市場調査は「対象範囲」と「現地の慣習」を押さえて設計する
イギリスは英語圏の成熟した市場で、調査手法や業界の規範が整った調査先進国です。一方で、UKとGBの対象範囲の違い、定性調査のリクルートや日程の慣習、UK GDPRへの対応など、日本とは異なる前提があります。こうしたポイントを押さえて調査を設計することで、欧州展開やテストマーケティングに役立つ、確度の高いインサイトを得ることができます。欧州全体の調査のポイントは「ヨーロッパ(欧州)市場調査ガイド」もあわせてご覧ください。
イギリスでの市場調査はイプソスにご相談ください
イプソスはイギリスで、消費者調査、公共分野、カスタマーエクスペリエンス、ヘルスケア、メディア、UXの6つの定性調査チームを持ち、定量調査では対面、電話、オンライン、郵送のすべての手法に対応しています。NHS Englandの「GP Patient Survey」や、Sport Englandの「Active Lives」調査など、国の公式統計となる大規模調査も手がけています。
また、市場調査協会(MRS)の行動規範に沿った運用を行い、ISO 20252、ISO 9001、ISO 27001の認証を取得しています。日本のリサーチャーとイギリスの調査チームが連携し、調査設計から実査、分析、レポーティングまでを一貫してサポートします。
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