定量調査と定性調査の違い、使い分けを事例を交えて解説
定量調査と定性調査は、マーケティングリサーチにおける2つの主要なアプローチです。両者には明確な違いがあり、それぞれ独自の特徴と利点を持っています。マーケティングリサーチの2大手法の違いを理解し、目的に応じた最適な調査方法の選び方を学べます。実例も交えて分かりやすく解説した、リサーチ初心者から実務者まで役立つ完全ガイドです。
このページでわかること:
- 定量調査と定性調査の違い
- 定量調査について
- 定量調査のメリット
- 定量調査のデメリット
- 定量調査の手法
- 定性調査とは
- 定性調査のメリット
- 定性調査のデメリット
- 定性調査の手法
- 新たな定量調査と定性調査の手法
- 定量調査と定性調査の使い分け
- 定量調査と定性調査の組み合わせが効果的な事例
- まとめ
定量調査と定性調査の違い
定量調査は、数値データを収集し統計的分析を行うことを目的としています。大規模なサンプル(数百〜数千)を対象とし、アンケートや構造化インタビューなどの手法を用いて、客観的で測定可能なデータを集めます。
一方、定性調査は深い洞察や理由、感情、動機などの質的なデータを得ることを目的としています。小規模なサンプル(数人〜数十人)を対象とし、深層インタビューやフォーカスグループなどの手法を用いて、詳細で文脈に富んだ情報を収集します。
多くの場合、両手法を組み合わせることで、より包括的な理解が得られます。研究の目的や状況に応じて、適切な手法を選択することが重要です。
定量調査について
大規模なサンプルから得られるデータは、統計的に有意であり、結果を一般化することができます。
主な調査課題
- 実態の把握 消費者のニーズの実態を理解することができます。
- 仮説検証 消費者のニーズについての仮説を検証することができます。
- 効果検証 1や2を基に作成された広告などの効果を測定することができます。
定量調査のメリット
データの客観性と一般化可能性
定量調査では、大規模サンプルから得られる数値データを扱うため、結果の客観性が高く、統計的手法を用いて母集団全体の傾向を推測しやすいです。これにより、信頼性の高い意思決定や戦略立案が可能となります。また、異なる集団間や時系列での比較分析も容易に行えるため、市場動向や消費者行動の変化を捉えるのに適しています。
効率的なデータ収集と分析
標準化された質問を多数の回答者に一度に行えるため、時間とコストの効率が良いのが定量調査の特徴です。オンライン調査やアンケートソフトウェアの発達により、さらに効率性が向上しています。また、統計ソフトウェアを使用することで、大量のデータを迅速に処理し、複雑な分析も効率的に行うことができます。
統計的検証と予測モデルの構築
定量調査では、仮説の検証や変数間の相関関係の分析など、統計的な分析が可能です。これにより、マーケティング戦略の効果測定や消費者行動の予測モデルの構築が可能となります。さらに、機械学習やAIを活用することで、より高度な予測分析や顧客セグメンテーションを行うことができ、ビジネス戦略の精緻化に貢献します。
定量調査のデメリット
深い洞察の欠如と柔軟性の制限
定量調査では表面的な情報は得られますが、回答の背景にある理由や感情を探ることは難しいです。また、事前に設計された質問項目以外の情報を得ることが困難であり、予想外の重要な洞察を見逃す可能性があります。このため、消費者の本音や潜在的なニーズを捉えきれないことがあり、製品開発やマーケティング戦略の立案に制限をもたらす可能性があります。
データの質と解釈の課題
回答者の理解度や真剣さによって、データの質が左右される可能性があります。また、人間の行動や心理の複雑さを数値だけで捉えきれない場合もあり、データの解釈に注意が必要です。さらに、サンプルの偏りや質問の仕方によって結果が大きく変わる可能性があるため、調査設計と結果の解釈には高度な専門知識と経験が求められます。
コンテキストの欠如と限定的な回答
定量調査では、回答者の置かれている状況や環境などのコンテキストを十分に把握することが難しいです。また、選択肢形式の質問が多用されるため、回答者の考えを完全に反映できない場合があります。これにより、消費者の真のニーズや行動の動機を見逃したり、誤って解釈したりする可能性があり、マーケティング戦略や製品開発の方向性を誤らせる恐れがあります。
このため、定量調査の結果だけでなく、定性調査を併用するなど、多角的なアプローチを取ることが重要です。また、調査結果の解釈や活用にあたっては、業界や市場の特性、社会的背景などの外部要因も考慮に入れる必要があります。これらの限界を認識し、適切に対処することで、定量調査の価値を最大限に引き出すことができます。
定量調査の手法
定量調査の手法は様々あり、調査の目的やターゲット層、予算と時間など様々な要素を考慮して適切な方法を選定します。以下は定量調査の代表的な手法です。
インターネット調査
オンライン上で行うアンケート調査で、最も一般的な定量調査手法です。インターネットが発達する前は電話や対面、郵送などが主流な調査でしたが、コストパフォーマンスの高さから利用者が増えています。
短期間で大量のデータを収集できる利点がありますが、インターネットユーザーに限定されるというバイアスがあります。
会場調査(CLT)
会場調査は、特定の場所に回答者を集めて行う定量調査手法です。製品テストや広告評価に適しており、管理された環境で直接的な反応を観察できます。大規模なサンプルを短期間で調査可能で、複雑な質問や製品デモンストレーションも実施できます。ただし、コストが高く、地理的制約があるため、オンライン調査との併用も増えています。
ホームユーステスト
ホームユーステストは、回答者が自宅で製品を使用し、その経験を報告する調査方法です。実際の使用環境での製品評価が可能で、長期的な使用感や習慣形成の観察に適しています。食品、家庭用品、美容製品などの日用品調査によく用いられます。詳細なフィードバックが得られますが、サンプル数が限られ、コストと時間がかかります。
電話調査
電話を通じて質問し、回答を得る方法です。比較的低コストで広範囲の調査が可能ですが、近年は固定電話離れにより代表性の確保が難しくなっています。
郵送調査
郵送調査は、質問票を郵便で対象者に送付し、回答を返送してもらう伝統的な調査方法です。広範囲の対象者にアプローチでき、回答者のペースで じっくり回答できる利点があります。しかし、回収率が低く、回答までに時間がかかるデメリットがあります。近年はオンライン調査に取って代わられつつありますが、高齢者層や特定の地域では依然として有効です。
店頭調査
商業施設や街頭で直接消費者に接触し、その場でアンケートに回答してもらう方法です。特定の場所や時間帯の利用者の意見を直接聞くことができます。
パネル調査
同一の対象者群に対して定期的に調査を行う手法です。時間の経過に伴う変化を追跡することができます。消費者パネルや視聴率調査などで用いられます。
定性調査とは

定性調査は、消費者の感情、動機、価値観を深く理解することを目指す調査で、消費者のニーズについての仮説を立てる際に役立ちます。定性調査の特徴として、消費者心理を深く理解できたり、リサーチャーが思っていなかった発見があります。
定性調査のメリット
深い洞察と柔軟な探求
定性調査では、消費者の本音や潜在的なニーズを引き出すことができます。インタビューやグループディスカッションを通じて、回答者の言葉や態度から深い洞察を得られます。また、調査中に新たな発見があれば質問を変更したり掘り下げたりできる柔軟性があります。これにより、予想外の回答から新商品や新サービスのヒントを得られることもあり、イノベーションの源泉となります。
文脈理解と非言語情報の活用
定性調査では、消費者の行動や意見の背景にある状況や環境を詳細に把握できます。これにより、製品やサービスの使用文脈を理解し、より適切なマーケティング戦略を立てることができます。さらに、表情やしぐさなどの非言語情報も収集できるため、言葉では表現されない感情や態度を捉えることができ、より豊かな消費者理解につながります。
アイデア創出と仮説形成
定性調査は、新しいアイデアの創出や仮説形成に適しています。自由回答形式や深掘りの質問により、消費者の潜在的なニーズや未知の問題点を発見できます。これらの洞察は、製品開発やマーケティング戦略の立案に直接活用できるほか、後続の定量調査のための仮説形成にも役立ちます。
定性調査のデメリット
時間とコストの負担
定性調査は個別に詳細な調査を行うため、時間とコストがかかります。インタビューやグループディスカッションの準備、実施、分析に多くの労力を要し、効率が悪くなりがちです。また、専門的なスキルを持つ調査者や分析者が必要となるため、人件費も高くなります。このため、大規模なサンプルを対象とする調査には適さず、予算や時間の制約がある場合は実施が難しくなります。
主観性と一般化の困難さ
定性調査では、データの解釈に調査者の主観が入りやすく、分析結果が左右される可能性があります。また、少数のサンプルから得られた結果を全体に当てはめることは困難です。このため、得られた洞察の信頼性や代表性に疑問が生じることがあり、意思決定の根拠として使用する際には注意が必要です。定量調査との併用や複数の分析者による検証など、主観性を補完する方法を考慮する必要があります。
技術要求と定量化の課題
定性調査を効果的に実施するには、インタビューやグループディスカッションを進行するスキルが必要です。これらの技術は習得に時間がかかり、経験豊富な調査者の確保が課題となることがあります。また、得られたデータは言語データや観察データが中心であるため、数値化や客観的な比較が難しい場合があります。このため、結果の報告や意思決定者への説明が複雑になることがあり、定量的なKPIを重視する組織では採用が躊躇われることもあります。これらの課題を克服するには、定性データの体系的な分析手法の開発や、定量調査との効果的な組み合わせが重要となります。
定性調査の手法
デプスインタビュー(深層面接法)
司会者であるモデレーターと調査対象者が1対1で行う詳細なインタビュー手法です。通常1〜2時間程度行われ、対象者の深い思考や感情を引き出します。構造化された質問と自由回答を組み合わせて使用します。
フォーカスグループインタビュー(Focus Group Interview、FGI)
4〜8人程度の少人数グループで行う調査です。参加者同士の相互作用から新たな意見や洞察を得ることができます。通常1.5〜2時間程度行われます。
エスノグラフィー調査
対象者の日常生活や実際の使用状況を観察する手法です。研究者が対象者の生活環境に入り込み、行動や習慣を直接観察します。長期間にわたることもあります。
プロジェクティブ技法
直接的な質問ではなく、絵や文章などの刺激を与えて反応を見る手法です。例えば、ブランドを動物に例えてもらうなど、潜在的な感情や態度を引き出します。
オンラインコミュニティ
インターネット上に作られた特定のグループで、参加者が長期間にわたって意見を交換したり課題に取り組んだりします。
新たな定量調査と定性調査の手法
マーケットリサーチの分野では、テクノロジーの進歩や社会の変化に伴い、新しい手法が常に開発されています。以下に、比較的新しい、または近年注目を集めている手法をいくつか紹介します。

定量調査の新たな手法
ビッグデータ分析
大量のデータを高速で処理し、パターンや相関関係を見出す手法です。ソーシャルメディアの投稿、購買履歴、位置情報などの多様なデータソースを活用します。機械学習やAIを用いて、複雑なデータセットから洞察を得ることができます。
ニューロマーケティング
脳波計(EEG)やfMRI(機能的磁気共鳴画像法)などを用いて、消費者の脳活動を直接測定する手法です。広告や製品に対する無意識の反応を科学的に分析することができます。
アイトラッキング調査
特殊な装置を用いて、被験者の視線の動きを追跡する手法です。Webサイトやパッケージデザインの効果測定などに活用されます。どの要素に注目しているか、どのような順序で情報を読み取っているかなどを客観的に把握できます。
センチメント分析
ソーシャルメディアやオンラインレビューなどのテキストデータから、感情や態度を自動的に分析する手法です。自然言語処理技術を用いて、ブランドや製品に対する消費者の感情を大規模に把握することができます。
定性調査の新たな手法
モバイルエスノグラフィー
参加者のスマートフォンを通じて、日常生活の様子をリアルタイムで記録・共有してもらう手法です。写真、動画、音声メモなどを通じて、より自然な環境での消費者行動を観察することができます。
オンライン共創ワークショップ
デジタルツールを活用し、地理的に離れた参加者とともにアイデア創出や問題解決を行う手法です。ホワイトボードやブレインストーミングツールなどを用いて、リアルタイムで協働作業を行います。
バーチャルリアリティ(VR)を用いた調査
VR技術を活用し、仮想環境内での消費者行動を観察する手法です。例えば、店舗レイアウトの評価や、新製品のプロトタイプテストなどに活用されます。実際の環境を再現することなく、様々なシナリオをテストすることができます。
ソーシャルリスニング
ソーシャルメディア上の自然な会話や議論を分析する手法です。特定のトピックやブランドに関する消費者の自発的な意見や感情を、リアルタイムで把握することができます。
定量調査と定性調査の使い分け
定量調査は、市場規模の把握や傾向の数値化に適しており、大規模なサンプルから客観的なデータを得るのに効果的です。一方、定性調査は消費者の深層心理の理解や新しいアイデアの創出に適しています。調査の初期段階では定性調査で仮説を立て、中期では定量調査でその仮説を検証し、後期では再び定性調査で結果の背景を深掘りするのが効果的です。
また、一般消費者の全体傾向を把握する際は定量調査を、特定セグメントの詳細な意見を収集する際は定性調査を用いるのが適切です。両手法を組み合わせることで、より包括的な洞察を得ることができます。
定量調査と定性調査の組み合わせが効果的な事例
定量調査と定性調査を組み合わせた効果的な調査事例をいくつか紹介します。これらの組み合わせは、それぞれの手法の長所を活かしつつ、短所を補完し合うことで、より深い洞察を得ることができます。

新製品開発のための調査
定性調査:フォーカスグループインタビュー
- 目的:新製品のコンセプトや機能に関する消費者の反応や意見を探る
- 方法:4人から8人程度のグループで、新製品のアイデアについて自由に議論してもらう
定量調査:大規模アンケート調査
- 目的:フォーカスグループインタビューで得られた洞察を基に、より広範な消費者の意見や購買意向を数値化
- 方法:オンラインパネルを使用し、1000人規模のサンプルにアンケートを実施
組み合わせの効果
フォーカスグループでインタビュー得られた深い洞察や予想外の意見を基に、アンケートの質問項目を設計することで、より的確な定量データを収集できます。また、定量データによって、フォーカスグループインタビューで出た意見がどの程度一般的なものかを確認できます。
ブランドイメージ調査
定性調査:デプスインタビュー
- 目的:ブランドに対する詳細な印象や感情を探る
- 方法:10人から20人程度の消費者に対し、1対1で1-2時間程度のインタビューを実施
定量調査:ブランドトラッキング調査
- 目的:ブランドの認知度、好感度、購買意向などを定期的に測定
- 方法:四半期ごとに500人規模のオンライン調査を実施
組み合わせの効果
デプスインタビューで得られた深い洞察を基に、ブランドトラッキング調査の質問項目を設計・改善することができます。また、トラッキング調査で見られた数値の変化の理由を、定期的なデプスインタビューで探ることで、より的確な戦略立案が可能になります。
顧客満足度向上のための調査

定量調査:顧客満足度調査(CSAT:Customer Satisfaction Score)
- 目的:サービスや製品に対する顧客の満足度を数値化
- 方法:全顧客に対して、サービス利用後にメールでアンケートを送付
定性調査:オンラインコミュニティ
- 目的:満足度の背景にある詳細な理由や改善点を探る
- 方法:100人程度の顧客に参加してもらい、2週間程度のオンラインディスカッションを実施
組み合わせの効果
CSATで低い評価をつけた顧客の意見をオンラインコミュニティで深掘りすることで、具体的な改善点を見出すことができます。また、高評価をつけた顧客の意見も詳しく聞くことで、サービスの強みをより明確に把握できます。
広告キャンペーンの効果測定
定量調査:広告認知度調査
- 目的:広告の到達率や認知度を測定
- 方法:キャンペーン前後で1000人規模のオンライン調査を実施
定性調査:デジタルジャーナル
- 目的:広告接触後の消費者の行動や感情の変化を詳細に追跡
- 方法:50人程度の参加者に2週間、日々の広告接触や商品に対する印象をオンラインで記録してもらう
組み合わせの効果
定量調査で広告の認知度や印象の変化を数値的に把握し、全体的なキャンペーンの効果を測定します。一方、デジタルジャーナルでは、広告に接触してから実際の購買行動に至るまでの消費者の思考プロセスや日常生活での影響を詳細に追跡することができます。これにより、広告がどのように消費者の意識や行動を変化させているかを深く理解し、より効果的な広告戦略の立案に活かすことができます。また、定量調査で見られた傾向の背景にある理由を、デジタルジャーナルの結果から解釈することで、より包括的な効果測定が可能になります。例えば、認知度は上がったものの購買意向が思ったほど上がらなかった場合、その理由をデジタルジャーナルの記録から探ることができます。
まとめ
定量調査と定性調査は、マーケットリサーチにおける相補的な手法です。定量調査は大規模サンプルから数値データを収集し、傾向や規模を客観的に把握します。一方、定性調査は少数の対象者から深い洞察を得て、消費者心理や行動の背景を探ります。両手法を適切に組み合わせることで、包括的な市場理解が可能になります。調査の目的、段階、対象者に応じて手法を選択し、結果を統合的に解釈することが重要です。効果的な調査設計と分析により、的確なマーケティング戦略の立案につながります。
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