2025年最新調査|物価高はいつまで続く?世界30か国の生活実感、インフレや経済不安を生活モニターから読み解く
物価上昇やインフレ、金利、雇用不安——。世界各国で経済環境が大きく揺れ動くなか、人々は自分たちの「暮らし」をどのように感じているのでしょうか。 「イプソス生活費モニター2025」は、世界30か国の消費者を対象に、現在の生活実感や将来の見通しについて調査したグローバルレポートです。今回はこの最新調査をもとに、世界の人々の暮らし感・インフレへの意識・将来不安を読み解いていきます。

世界の“いまの暮らし感”「経済的に余裕がある/まあまあ暮らせている」人は増加
調査結果によると、「経済的に快適、またはまあまあ暮らせている」と感じている人の割合は、30か国平均で37%。これは前回調査(2024年末)の33%から上昇しており、世界全体では生活実感がやや改善していることがうかがえます。 特に改善が見られた国としては、以下が挙げられます。 オーストラリア(47%、前年より11%増加)、英国(51%、前年より6%増加)、タイ(35%、前年より6%増加)

オーストラリア:インフレ沈静化で実感は改善、ただし生活費負担は依然重い
オーストラリアでは、インフレ率と金利の低下を背景に、経済的に「快適に暮らしている/まあまあうまくいっている」と感じる人の割合が大きく増加し、近年で最も高い水準に達しました。一方で、生活費そのものは長期的に大きく上昇しており、多くの人が「10年前より生活費は大幅に高い」と感じています。特に、賃金が生活費の上昇に追いついていないという認識や、住宅ローン負担の重さが中・高所得層でも課題となっており、実感の改善と家計の厳しさが併存している状況にあります。
英国:インフレ後退で安心感は回復、過去の物価ショックの影響は根強い
英国では、インフレ率の低下とともに、経済的に「快適/まあまあうまくいっている」と感じる人の割合が前年よりも6%上昇しました。しかし、その背景には、2021年以降の急激なインフレ、とりわけエネルギーや食料価格の高騰による大きな生活費ショックがあります。低所得世帯ほど影響は深刻で、必需品への支出比率が高いため、実質所得の目減りを強く実感してきました。足元では改善の兆しが見られるものの、過去数年の負担が人々の意識に強く残っています。
タイ:一部で生活実感は改善も、経済不安とインフレ懸念が広がる
タイでは、経済的に「快適/まあまあうまくいっている」と感じる人が増加しています。一方で、国全体の経済状況を「悪い」と評価する人も増えており、特に低所得層では、経済への悲観的な見方が強まり、高額な買い物だけでなく日用品の購入にも慎重さが広がっています。個人の将来の財政見通しも悪化しており、生活防衛意識が強まっている状況です。
これらの国では、インフレ率の落ち着きや経済の安定感が、生活実感の改善につながっている可能性がります。しかし、この改善は「余裕のある生活」ではなく、「まあまあうまくやっている」レベルを含む回答。生活が楽になったというよりも、最悪期を脱したという認識に近いと言えます。
日本:生活費上昇と将来不安が重なり、「快適に暮らしている」実感は依然低水準
日本では、「快適に暮らしている/まあまあうまくいっている」と回答した人は20%と30か国平均(37%)を大きく下回り、過去1年で改善は見られていません。背景には、今後もインフレが続くと予想する人が多いことに加え、世界経済の不安定さ、自国の政策や金利、企業の価格設定など、生活費を押し上げる要因が複合的に意識されている点があります。こうしたコスト上昇への警戒感と、国が「正しい方向に向かっていない」と感じる人が8割に達している状況が重なり、生活の安心感や将来への見通しを持ちにくい構造が続いています。
可処分所得は今後どうなる?「今後1年間で減少する」との回答は31%
今後12か月の可処分所得についての質問では、以下のような結果となりました。
- 「増える」と考える人:30%
- 「減る」と考える人:31%

楽観と悲観がほぼ拮抗しており、将来への見通しは依然として不透明であることが分かります。
特にヨーロッパや北米の多くの国では、可処分所得が「増える」よりも「減る」と考える人のほうが多く、生活費上昇への警戒感が根強く残っています。
国別に見ると、フランスでは44%が来年可処分所得が減少すると予測しており、30か国平均を大きく上回っています。このほか、
- トルコ:43%
- ニュージーランド:41%
- 英国:40%
- アルゼンチン:40%
と、複数の国で4割前後が可処分所得の減少を見込んでいます。 日本でも34%が可処分所得の減少を予測しており、こちらも30か国平均を上回っています。物価上昇が続くなか、所得の先行きに対する不安が日本でも強まっている状況がうかがえます。
一部の国では、賃金上昇や雇用の安定を背景に前向きな見方が広がる一方、インフレ圧力が続く国では「生活はさらに厳しくなる」という認識が根強いのです。
インフレと物価上昇への懸念、生活実感の最大の重し
インフレに対する懸念は依然として強く、30か国平均で68%が「今後1年でインフレ率は上昇する」と予想している。 この割合は前年からさらに上昇しており、物価への警戒感が再び高まっていることが分かります。

物価高はなぜ起きているのか?生活費上昇の主な要因
物価高の背景には単一の原因ではなく、世界経済、各国の政策、金利、企業行動、地政学リスクなど、複数の要因が複合的に作用しています。以下では、生活者が認識している主な物価高の要因を詳しく見ていきます。

世界的な経済状況が物価高を押し上げている
30国平均で72%が「世界的な経済状況が物価上昇の主要因である」と回答しています。2024年11月と比較すると、29か国中18か国でこの認識は強まっており、インフレの原因を「自国ではコントロールできない外部要因」と捉える人が増えています。
各国政府の政策もインフレ要因として認識
30か国平均で68%が「自国の政策が物価高に影響している」と考えています。 政府による財政政策やエネルギー政策、規制の在り方が、生活費の上昇につながっているという見方です。 フランス(81%)、タイ(79%)、韓国(77%)、英国(76%)に加え、日本でも64%が政策を物価高の要因として認識しており、政策への不満や不信感が生活者意識に影響していることがうかがえます。
金利水準の上昇が家計を圧迫
自国の金利水準がインフレに寄与していると考える人は、30か国平均で65%にのぼります。金利の上昇は、住宅ローンや借入金の返済負担を通じて、可処分所得を圧迫する要因となります。 国別に見ると、南アフリカ(81%)、ブラジル(79%)、タイ(78%)では、金利上昇を物価高の主な要因と捉える人の割合が特に高くなっています。一方、日本では47%にとどまり、ドイツに次いで2番目に低い水準です。
企業の過剰な収益が物価高を招いているという見方
30か国平均で62%が「企業が過剰な利益を上げていることがインフレを引き起こしている」と回答しています。特にベビーブーマー世代ではこの傾向が強く、66%が企業の過剰な利益を物価高の原因と考えています。 国別だと、タイ(79%)、オーストラリア、アイルランド、英国(それぞれ70%)などで高くなっています。日本でも45%が企業の過剰収益を物価高の要因として挙げています。
ロシアのウクライナ侵攻がもたらした長期的な影響
30か国平均で55%が、ロシアのウクライナ侵攻とその帰結がインフレに影響していると認識しています。エネルギー価格や食料供給への影響が、生活費上昇として今なお意識されています。 ポーランド(70%)、イタリア(69%)、オランダ、ベルギー、スウェーデン(それぞれ68%)などヨーロッパを中心に地政学リスクを物価高の要因と捉える傾向が顕著です。
移民増加と物価高を結びつける認識
自国への移民がインフレに寄与していると考える人は、30か国平均で54%です。 特にヨーロッパや北米では、移民への懸念と生活費上昇の要因は移民にあるとの認識に相関が見られます。

まとめ:「最悪期は越えた」が、生活の安心感はまだ戻っていない
イプソス生活費モニター2025から見えてきたのは、世界全体では生活実感がわずかに改善しつつある一方で、多くの人が依然として生活費の上昇や将来への不安を抱えているという現実です。 「経済的にまあまあ暮らせている」と感じる人は増えたものの、それは余裕のある生活への回復ではなく、インフレのピークを越えたことによる一時的な安堵感に近いと言えるでしょう。 特に、世界経済の不透明さ、各国政府の政策、金利水準、企業行動、地政学リスクといった複数の要因が重なり合い、物価高への警戒感はむしろ強まっています。可処分所得についても、「増える」と「減る」が拮抗しており、将来の見通しは国や所得層によって大きく分かれています。
日本に目を向けると、生活実感の改善は見られず、インフレの長期化や政策への不信感、世界経済への不安が重なり、「快適に暮らしている」と感じる人は依然として少数派です。物価上昇が家計に与える影響をどう抑え、実質的な生活の安定につなげていくのかが、今後の大きな課題となっています。 今回の調査結果は、インフレが単なる経済指標の問題ではなく、人々の暮らしの実感や将来への希望に直結するテーマであることを改めて示しています。生活費モニターは、各国の消費者意識の変化を通じて、これからの経済や社会の動きを読み解く重要な手がかりとなるでしょう。詳しくはレポートをご確認ください。