フェイクニュース、フィルターバブル、ポスト真実は他人の問題…

イプソスが社会の現実について継続的に実施している調査「The Perils of Perception 認識の危険性調査」 は、27カ国の19,000人以上を対象とした大規模調査です。最新の結果では、フェイクニュースに関する認識、フィルターバブルやポスト真実は自分よりも誰か他の人に影響している、などに焦点が当てられています。しかし過半数の人々はよくフェイクニュースを目にすると回答、そして約半数の人々はそれがフェイクニュースだとわかるまで真実だと思っていたと回答しています。

これを踏まえると、政治家やメディアに対する信頼感が低下していること考えられていることも、また、メディア上で嘘の件数が増加傾向にあるのも、驚くことではありません。一方で、比較的好ましい面として言えるのは、私たちの政治や社会問題に関する知識に、大きな低下は見られないということです。ただ、現実に対する私たちの理解度が高まっているかどうかについては、意見が分かれています。

他の人は、フィルターバブルの中で生きている…

27か国においては、65%の人が「居住国の一般的な人は、インターネット上のバブルの中で生きており、自身と似たような人とだけとつながりを持ち、同感だと思う意見だけを探している」と考えています。この考えに対する賛同率は、国によって大きく異なっています。最も高い賛同率を示したのはアメリカでした。実に77%が、「他の人はバブルの中で生きている」と考えています。次いでインドでは74%、マレーシアでは72%、スウェーデンでは71%でした。日本では、これに賛同する割合は44%で、最も低い賛同率でした。

とは言え、自分自身のこととなると、人は「自身の持つ、新しい考えを取り入れようという姿勢は他人より優れている」と考えています。「自身と似たような人とだけつながりを持っている、あるいは、すでに“自身でそう思っている”見解のみを探している」と回答した人は、たったの34%でした。ドイツ人が自身について、この記述に賛同した割合は22%のみでした。スウェーデンやアルゼンチンも23%でした。

他の人は、”フェイクニュース”を見分けるのに悪戦苦闘している

63%の人が、「自身は、事実のニュースと、“フェイクニュース”(全てがフィクションで構成されたニュースと定義されている)を見分けられる自信がある」と回答しています。自身の識別能力に特に自信があったのは、トルコ人、チリ人、ペルー人でした。一方で、日本人(30%)、スペイン人(39%)はあまり自信がありませんでした。

しかし、再三になりますが、自国の一般的国民が持つ識別能力についてはあまり信頼していません。「自国の一般的国民は、事実のニュースと、フェイクニュースを識別できる」と回答した割合は、グローバル平均では4 1%です。自国民の識別能力に対する信頼度が最も低い傾向にあったのは、スウェーデン人(26%)、日本人(26%)、イタリア人(27%)、イギリス人(28%)、アメリカ人(29%)でした。

しかし、どのみち他の人は、事実については気にしていない

60%の人は、「自国の一般的な人は、政治や社会に関する事実についてはもはや気にしておらず、自身が信じたいものだけを信じている」と考えています。

ペルーでは71%、セルビアでは70%に、トルコでは69%、米国では68%がこの記述に賛同しています。調査対象27カ国のほぼ全てでこの記述への賛同が半数以上を占めていますが、イタリア(48%)、日本(49%)、中国(49%)だけが半数を若干下回り、「事実のほうにより関心がある」と考えているようです。

となると、過半数の人々が移民の割合や犯罪率などの社会的現実については、一般人よりも理解していると自信を持っていても驚くことではありません。59%の人が、「自身の理解力は他人よりも高い」と考えており、「高くない」と回答した人はたったの29%でした。

「自身は、自国の一般的な国民よりも、正しい情報に精通している」と特に自信を持って回答していたのは、トルコ人(76%)、インド人(75%)でした。これら2国について このような結果が得られたのは、この調査がオンラインで、一般人よりもインターネットへの接続性が高い、比較的裕福な層に対して行われたからかもしれません。しかし、これが理由にならない国々では、「正しい情報に精通している」という自信が見当違いです。例えば、イギリスにおいては、オンラインの58%の人が、「自身は、一般人よりも、現実をよく理解している」と考えていますが、「そう思わない」と回答した割合はたったの27%でした。

「フェイクニュース」は、大半の人が定期的に目にしており、それを信じている人は半数近く

27カ国の調査対象者全体でみると60%の人が、「報道関係者が意図的に、真実ではないことをかなり定期的に発信している」と述べています。

しかし、この見解には、国ごとに大きな差異があります。アルゼンチンでは、82%の人が「少なくともかなり定期的に、意図的なフェイクストーリーをみる」と回答しましたが、ドイツ人では30%、日本では36%、韓国では39%にとどまりました。

27か国全体では、48%の人が「過去にフェイクニュースに騙されたことがある」---「後にフェイク(虚偽)だとわかるまで、問題のニュースを真実だと信じていた」---と述べています。この記述に特に賛同する傾向が高かったのはブラジル人で、62%が「ある時期、フェイクストーリーを信じていたことがある」と述べています。

「フェイクニュース」は、本来の意味を失いつつある―36%が「政治家が嫌うストーリーの信頼性を傷つけるために使う言葉」と捉えている

「フェイクニュース」という言葉は、さまざまな意味で使われています。この言葉の最も一般的な解釈は、「事実とは違うストーリー」で、「自身の解釈はこれ」と選択した人は56%でした。しかし、44%の人は、「フェイクニュースは、報道機関、あるいは政治家が“自身の主張を支持する”事実のみを選択したストーリー」とも考えています。

そして現在、36%は「“フェイクニュース”は、政治家やメディアが賛同していないニュースの信頼性を傷つけるために使用する言葉」と捉えています。この定義を選択した人の割合は国ごとに大きく異なっており、アメリカにおいては、過半数(51%)がこのように捉えていますが、イタリアでは11%です。

人は「メディア、ソーシャルメディア、政治家が誤解を招いているために、自身も、社会的現実については間違った捉え方をしてしまった」と考えている---しかし、「自身に偏った考え方ある」と認識している人も多く存在している

イプソスが認識の危険性調査を行ったところ、人は、「自国の人口の何パーセントが移民なのか」、あるいは、「犯罪率は上昇・下降傾向にあるのか」などの重要な現実については、かなり誤った認識を持っていることが明らかになりました。「なぜ、人には、このような誤認識が起きるのか」という質問に対して多かった回答は、「政治家」(52%)、「メディア」(49%)、「ソーシャルメディア」(41%)が「人に誤解を生じさせている」というものでした。

しかし、「人には、世界に対する偏見がある」と捉えている人も多く見られます。「人には、ネガティブなニュースに注目し、”物事は悪化している“と捉えるか、あるいは、自身の経験から概括的に結論を引き出す傾向がある」ので認識が間違ってしまうと考える人が、43%いました。

この考え方は国によって異なります。特に、自身(あるいは人)の誤認識を政治家のせいにする傾向が高かったのは、南アフリカ(68%)とアメリカ(64%)の国民です。

自身(あるいは人)の誤認識をメディアのせいにする傾向が、特に高かった国民は、セルビア人(68%)、トルコ人(61%)、そしてイギリス人(60%)でした。

マレーシア人(59%)、アメリカ人(58%) 、そしてイギリス人(56%)は、ソーシャルメディアに非があると回答しています。

一方で、「自身の偏見が他の人を惑わせている」 と回答する傾向が最も高かったのは、アメリカ人(57%)、南アフリカ人(56%)、スウェーデン人(56%)でした。

政治家に対する信頼感が低下し、嘘が増加している---「自身の政治的知識のレベルが低下している」かどうかについては、意見が分かれている

この調査結果を踏まえると、64%の人が「国民は、自国の政治家が30年前と比べて、真実を述べなくなってきた」と考えているのも無理はありません。調査対象の各国で過半数を占めています。中でも、最も割合が高かった国はスウェーデンの80%、南アフリカの77%でした。

この調査では、2018年6月22日~7月6日、世界27か国で19,243件のオンラインアンケートを実施しました。調査対象者は、アメリカとカナダでは18~64歳、その他の国では16~64歳でした。

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