なぜアルツハイマー病は“医療システムの問題”なのか?社会的コスト・RWE・市場アクセス再定義の視点
私たちの最新記事では、アルツハイマー病(AD)を医療システムのリスク増幅要因として再定義し、この病気とその管理が世界的な保健システムに及ぼす波及的影響を探っています。
医療システム全体を揺るがす“見えない負荷”とは?
高齢化が進む世界において、アルツハイマー病は静かに、しかし確実に医療システム全体を圧迫しています。
それにもかかわらず、多くの議論はいまだ「後期症状」「介護」「終末期ケア」に限定されたままです。
イプソスの最新レポート「見えざる脅威から可視化される価値へ:医療システムの視点からアルツハイマー病を再考する」は、この疾患を「医療システムの負荷増幅要因」として再定義しています
本記事では、その核心部分を抜粋しながら、なぜ今、アルツハイマー病を“システムの課題”として捉え直す必要があるのかを解説します。
世界で進行する「見えざる脅威」
アルツハイマー病を含む認知症の有病者数は、2019年の5,500万人から2050年は1億5,200万人の約3倍に増加すると予測されています。さらに、世界全体の経済的負担は2019年に1.3兆ドル から2030年にはほぼ倍増する見込みです。これは単なる患者数の問題ではありません。医療財政・人材・インフラの持続可能性そのものが問われているのです。
見落とされてきた「間接コスト」という巨大な負担
従来の医療経済評価(CEA、予算影響分析)は、
診断・治療などの直接医療費に焦点を当ててきました。しかし実際には、アルツハイマー病の負担の75〜86%は間接コストです。
主な間接コスト
- 転倒・誤嚥性肺炎などによる予防可能な入院の増加
- 在宅継続困難による施設入所コスト
- 家族介護者の生産性損失(年間最大5,000億ドル規模)
- 介護者自身の心身の健康悪化と医療費増加
これらの多くは、医療制度やHTAの枠外で処理されてきました。
なぜ診断が遅れるのか?最大75%が未診断という現実
アルツハイマー病は、診断の遅れが極めて深刻です。
- 世界全体で最大75%が未診断
- 症状出現から診断まで平均2〜3年の遅れ
特に日本を含むアジア地域では、「検査への心理的ハードル」や「認知症に対する理解不足」が顕著です。
HEORと市場アクセスに突きつけられる「公平性」の課題
アルツハイマー病は誰にでも起こり得ます。しかし、診断・治療・支援へのアクセスは平等ではありません。
- 人種・社会経済的地位による診断格差
- 地方と都市部の医療資源差
- 臨床試験参加者の著しい偏り
従来のQALY中心の評価では、文化的背景や介護の社会的価値は反映されません。本レポートでは、「公平性を調整したHEORフレームワーク」の必要性を強く提言しています。
治療は「薬」だけでは成立しない
疾患修飾療法(DMT)の登場は希望をもたらしました。
しかし同時に、新たな課題も浮き彫りになっています。
- 高額な画像・バイオマーカー検査
- 専門医不足
- 継続的モニタリング体制
- 介護者サポートの欠如
治療は単独ではなく、診断・デジタル・介護を含む“システム介入”です。アルツハイマー病は、単なる臨床診断ではありません。医療システムにかかる負荷のシグナルであり、分野横断的イノベーションの機会です。
レポートでは、
- HEORモデルをどう拡張すべきか
- ペイヤーは何を「価値」と見ているのか
- 市場アクセス戦略をどう再設計すべきか
こうした問いへの具体的かつ実務的な示唆を、イプソスの視点で体系的にまとめています。ぜひご覧ください。