認識は「現実」ではない: 心配しているほど悪くはないようだ
殺人率、テロの被害者、10代の妊娠、糖尿病、自分の健康に関することなど、多くのトピックで、人々が感じているほど、現実は悪くはないようです。
例を挙げると・・・
- 2000年と比較して、殺人率が減少していると感じている人は7%のみだが、現実にはほとんどの国で大幅に減少しており、また今回の全調査対象国の合計でも29%減少している。
- 過去15年間とその前の15年間を比較した場合、テロによる死者数が減少したと感じているのは19%のみだが、現実には、ほとんどの国で大幅に減少しており、全対象国全体では約半減している。
- 人々が大きく過大評価しているのは囚人に占める移民の割合だ。全体の推測の平均は28%ですが、現実は15%に過ぎない。
- 10代の妊娠・出産は、世界中で過大評価されており、国によっては驚くほどの数字の場合がある。全体では、年間20%の10代の女性が出産すると推測しているが、現実には2%に過ぎない。国別にみると、年間約半数の10代女性が出産すると推測しているところもある。実際には、今回の調査対象国のうち最も高い数字は6.7%。
- 世界では、10人中6人が健康な子どもに接種するワクチンが自閉症の原因になる可能性があると信じている、または疑っている。この見解には信憑性がないと広言されているにも関わらず、間違った見解だと考えている人は42%に止まる。
- ロシアは世界から「最も酔っ払っている」国と見られているが、実際には第7位に過ぎない。今回の調査で、アルコール消費量の最も多い国をベルギーであると正しく言い当てた人はほとんどいない。
- しかし、多くの人々が「最も甘いもの好き」の国をアメリカであると見ており、それは正しい。現実にも、他の調査対象国を大きく引き離してのトップとなった。
- 人々は一般的にテクノロジーによる人とのつながりを過大評価している。Facebookのアカウントを持っている人の割合を75%と推測、だが実際には46%。
調査対象38カ国の多くが間違った認識を持っている・・・
- 殺人率:自国の殺人率が下がったと考えている人は7%に過ぎないが、ほとんどの国で大幅に減少している。調査対象国全体では29%の減少。たとえば、南アフリカの85%の対象者が「殺人率は上昇した」と認識しているが、実際には、29%減少。日本では、「増加または変化なし」と認識しているのは64%であるが、実際には殺人率は40%も減少。
- テロ:「過去15年間のテロによる死者数は、その前の15年間と比較して減少した」 と認識しているのは全調査対象者の19%に過ぎない。実際には、調査対象国のほとんどで大幅に減少。また今回の調査対象国全体では、テロによる死者数はおよそ半減。たとえば、トルコでは60%の対象者が「過去15年間のテロによる死者数は増加した」と回答したが、実際には、その前の15年間の約半数に減少。しかし、いくつかの国では正しい認識を持っている。フランスでは65%がテロによる死者数は「増加した」と回答。
- 囚人に占める移民の割合:ほとんどの国では、囚人に占める移民の割合を過大評価している。調査対象国全体では28%と推測しているのに対し、実際は15%。そして、いくつかの国ではさらに大きく誤解している。たとえば、オランダでは、「囚人の51%が移民」と推測されているが、現実には19%に過ぎない。同様な過大評価は南アフリカ、フランス、アメリカでも見られた。日本では、「囚人の19%が移民」と推測されているが、実際は5.6%。しかし、サウジアラビアでは過小評価となっており、26%の推測に対し、現実は72%。
- 10代の妊娠・出産:すべての調査対象国で過大評価している。国によっては驚くほどの数字の場合がある。たとえば、ブラジルでは年間48%の15歳~19歳の女性が出産すると推測しているが、実際には6.7%に過ぎない。コロンビア、メキシコ、ペルーなど他のラテンアメリカの国々でも同じように大きくはずれている。南アフリカも同様で、44% という推測に対し、現実には4.4%。認識と現実が最も近かったデンマークとノルウェーでさえ過大評価されている。どちらも8%と推測しているのに対し、現実はデンマーク0.4%、ノルウェー0.6%。日本でも過大評価で27%の推測に対し、現実は0.4%。
- ワクチン:「健康な子どもに接種するワクチンが自閉症の原因になる可能性がある」という見解には信憑性はないと広言されているにも関わらず、これを「間違った見解である」と認識しているのは半数以下。たとえば、モンテネグロとインドでは、「正しい見解」だと認識している人が44%にも上る。
- 糖尿病:今回の調査対象国すべてで、糖尿病患者の割合は過大評価されている。インドとブラジルでは、47%と推測されているが、実際はインドで9%、ブラジルで10%となっている。また、調査対象国全体では34%と推測されているが、実際は8%。日本では27%と推測され、実際は6%である。
- 健康状態:ほとんどすべての調査対象国で、「自分の健康状態はどうかと尋ねられたときに100人中何人が“良好”と答えると思うか?」という推測と「自分の健康状態はどうか?」という現実を比較した場合、現実のほうが推測を上回る。韓国では、「“良好"と答えるだろう」と推測したのは39%だが、実際に自分自身のことになると80%が「自分の健康状態は”良好”」と回答。ニュージーランド、マレーシアでも近い結果である。唯一、日本では大きく推測が現実を上回り、「“良好”と答えるだろう」が47%、「自分の健康状態は"良好“」は35%で、12ポイントの差。
- 自殺:これについては過大評価と過小評価の両方が見られる。香港の15歳~24歳女性の自殺率は50%と驚くべき数字であるが、今回調査の推測では14%である。南アフリカの15歳~24歳男性では、推測が27%、現実には1.1%のみ。日本ではこの年齢層の男性の自殺率を27%と推測しているが、現実は47.1%。
- スマートフォン所有:ほとんどすべての調査対象国でスマホの所有率は過大評価されている。インドネシアではスマホ所有率を85%と推測、現実は21%で、かけ離れた結果となった。これは今回の調査手法がオンライン調査であったことが一因であると思われる。インターネット普及率が低い国では、調査対象者は中流以上でスマホやインターネットに接続可能な層である。それにより、対象者自身の経験から、現実にはそうではないが、他の国民も自分と同様であろうと推測したと考えられる。しかしインターネット普及率が高い国々でも似通った過大評価が見られる。ドイツではスマホ所有率の推測は86%、現実は69%である。
- Facebookの利用:スマホの所有と同様に、Facebookアカウントの所有率では、すべての調査対象国で過大評価が見られる。インドのオンライン調査対象者は、13歳以上の人々がFacebookアカウントを持っているのは64%と推測しているが、実際は8%に過ぎない。しかし、先進国のドイツであっても、13歳以上のドイツ人のうち72%がFacebookアカウントを持っていると推測しているが、実際は34%である。
アルコールの消費量などでも間違った受け止め方
- アルコール消費量:ロシアは世界から「最も酔っ払っている」国と見られているが、実際には、一人当たりのアルコール消費量は38カ国中第7位。今回の調査で、一人当たりのアルコール消費量が最も多い国を「ベルギー」だと言い当てた人はほとんどおらず、ベルギー人でさえ、5%のみが正解したに過ぎない。一方で、アメリカは過大評価されており、「酔っ払っていると思う国」ランキングでは第2位であるが、実際の一人当たりのアルコール消費量は38か国中第13位。
- 砂糖の消費量:アメリカは世界から「最も甘い物好き」な国と見られており、その認識は正しい。全調査対象者の58%が砂糖の消費量が高いと思う国としてアメリカを挙げ、これは他の調査対象国を大きく引き離している。フランスや中国は、砂糖の消費大国として誤解されている。フランスは、今回の調査対象者が「砂糖の消費量が多いと思う国」の同率第3位にランキングされているが、実際は一人当たりの砂糖消費量は16位。中国は第5位にランキングされているが、実際は24位である。アメリカは自国でも69%の人々が「アメリカはトップである」と正しく認識している。
- 天国、地獄、神を信じるか:調査全体で見れば、どの程度の人々が天国、地獄、神を信じるかについての認識は間違ってはいない。しかし、国別に見ると間違った認識が浮かび上がってくる。たとえば日本では、「100人のうち何人が天国を信じていると思うか」という質問の調査結果は平均42%であるが、実際には19%で現実が大きく下回る。南アフリカでは真逆で、調査結果は67%、実際は84%と現実が大きく上回る。 地獄についても同様に両方のパターンで、推測と現実の乖離が大きい。たとえばスペインでは43%が「スペイン人は地獄を信じている」と推測したが、実際には19%。
7つの設問について、人々の認識と現実を比べると、どの国が自国の現実をよく認識しているかのパターンがはっきりと見えます。イプソスで算出した「誤認識指標」によると以下のような結果となりました。
南アフリカは今回、「最も不正確な認識を持つ国」という不名誉な結果となりました。ブラジル、フィリピンも不正確な国という結果となりました。
「正確な認識を持つ国」のトップはスウェーデンとなり、次いでノルウェー、3位はデンマークでした。
ランキング |
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1 | 南アフリカ | 最も不正確な認識 |
2 | ブラジル |
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3 | フィリピン | |
4 | ペルー |
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5 | インド |
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6 | インドネシア |
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7 | コロンビア |
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8 | メキシコ |
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9 | トルコ |
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10 | サウジアラビア |
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11 | アルゼンチン |
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12 | イタリア |
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13 | チリ |
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14 | 日本 | |
15 | マレーシア |
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16 | フランス |
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17 | 韓国 |
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18 | ハンガリー |
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19 | ニュージーランド |
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20 | オランダ |
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21 | 香港 |
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22 | ポーランド |
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23 | アメリカ |
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24 | ロシア |
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25 | ドイツ |
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26 | オーストラリア |
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27 | 中国 |
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28 | シンガポール |
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29 | イスラエル |
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30 | イギリス |
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31 | ベルギー |
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32 | カナダ |
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33 | セルビア |
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34 | モンテネグロ |
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35 | スペイン |
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36 | デンマーク |
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37 | ノルウェー |
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38 | スウェーデン | 最も正確な認識 |
ロンドンのIpsos Social Research Instituteでマネージング・ディレクターを務めるボビー・ダッフィは、以下のようにコメントしています:
「今回の調査対象38カ国で、認識違いが多く見られました。テロによる被害、殺人率、移民、十代の妊娠・出産など、メディアで広く取り上げられる事柄についての認識が間違っています。
その理由は、これらの事柄に関する報道や政治、我々のメンタルへの影響や偏見などに関する社会心理学的な解釈など様々で、一つではありません。
しかし、前回の調査からわかっていることがあります。私たちは不安なこと、心配なことについて過大評価してしまいがちだということです。報道を目にすればするほど、広くいきわたっていると思えば思うほど、特に恐ろしい、脅迫的なことについてはその傾向が見られます。私たちの脳はネガティブな情報に対して違う働きをするようで、情報が脳内に残り、現実を見るときに影響します。自分の国の状態とどのように変化していくかについて、必要以上に不安になります。
自分自身の決断についてもその傾向が見られます。たとえば健康な子供へのワクチン投与と自閉症の関連性についての疑念は、信憑性に欠けるとされているにも関わらず、私たちの態度に影響を与えています。
また、我々は他の国に対して、様々な項目で間違ったイメージを抱いています。たとえば、ロシアとアメリカのイメージは酒飲みだというイメージは娯楽作品でよく取り上げられることから、文化的な刷り込みがされているのかも知れません。一方ベルギーはあまり取り上げられないので、軽いイメージなのではないでしょうか?しかし、アメリカは甘い物好きだ、のように正しいものもあります。
また、イプソスの「誤認識指標」から、間違った認識を持つ国は比較的インターネット普及率が低い傾向があるということがわかりました。今回の調査はオンライン調査で実施されたことを考慮すると、中流階級以上のインターネットのアクセスできる人々は、その国の自分たち以外の人々は自分たち近いと考えていることを反映しています。」