Flair Italy 2018 アイデンティティを捜し求める国
イプソス・フレア・イタリア(Ipsos Flair Italy)は、今回で第8版目になります。今回は、現在イタリアで起きている現象、それに対するイタリア人の反応や世界におけるイタリアの位置についてイタリア人がどう感じているかなどが説明されています。今回は、ウェブ、ソーシャルリスニング、コミュニティの意見、ブログのエントリーなど、新しいデータ収集形式を用いて情報を収集したことから、さらに中身の濃い内容になっています。
1. 回復するにはしたが、、、
景気は予想以上の回復を遂げています。そして、ここ数年ではじめてのことですが、周囲の環境が「悪化した」という国民の声はなく、国民は回復を実感しています。さらに貯蓄を行う必要性が低下したため、消費支出も見られるようになりました。とは言え、これによって社会的一体性が生まれたわけではありません。先のことはまだ予測できないため、新しく仕事が発生したとしてもほとんどは臨時雇いであり、仕事の減少を招くオートメーション化が進んでいます。そして何よりも、この経済危機で生じた格差はフランスやドイツで起きていることとは対照的に、景気回復をもってしても依然として取り除かれてはいません。
2. 二分された国
昔からある、北部・南部の裂け目が拡大しています。プッリャ州は、イタリア統一のための戦いで命を落とした南部イタリア人を悼む決議を承認しました。これを受けて、北部のロンバルディア州とヴェネト州は、州の自治権拡大に関する住民投票を行いました。このように、イタリアは、同じ国内で二分された国とも言えます。ミラノは他の北部と異なるだけでなく、ロンバルディア州の中でも異色です。ミラノは自らを一つの都市国家と考え始めており、イタリアという国や政府よりも、西洋のスマート・シティ・ネットワークに倣おうという動きが見られるようになりました。
3. 不平等な国
イタリア国内では、格差が拡大しています。貧困や社会的排除の被害を受けるリスクがある人の人数は、「欧州2020」の展望に反し、2008年の26%から2016年には30%にまで増大しました。「ワーキングプア」(仕事をしながらも、経済的に困難な状態にある人)層が拡大しています。所得再分配は高齢者に偏っています。若年世帯の貧困が、2007年から2015年にかけて8ポイント増加している一方で、高齢世帯の貧困は1ポイント減少しています。近年中心となっているテーマ「職業」については、二極化が進んでいます。中間職が消失しているだけでなく、非技能職の雇用もなくなりつつあります。労働者や職工の数は減少しており、イタリア国立統計研究所の年次統計レポートでは、イタリア社会を再構築し、新しい社会階層を明らかにしようとしています。
4. 政治上のアイデンティティが弱い
イタリアのレンツィ元首相が、改革プログラムを完了できなかったため、基準となる政治構造を定義し直す必要性が生じています。 イタリア民主党はすでに党としてのアイデンティティを失い、社会の中に党の基準点を見出そうと苦心しています。党は分裂し、党員たちは右派に行こう、あるいは左派に行こうと離党している状態にあります。中道右派は、遠隔地の権力を集結し、とりわけヨーロッパ全体に対しての働きかけができます。しかし、あちらでは、サルヴィーニとメローニが至上主義をかかげ、こちらでは、ベルスコーニが、1994年と同じテーマを繰り返し主張している状態にあります。5つ星運動(政党)は、多様な有権者が選出した党員で構成されています。そしてこの党を支持する有権者は、総体的なアジェンダとは相容れない、さまざまな政治的立場を示しています。左派にはレンツィに対する恨みがあるだけで、それ以外に何のプログラムも掲げていません。2018年3月の選挙では、過半数の議席を勝ち取った政党は、一つもありませんでした。つまり、ハング・パーラメント(与党ですら、過半数の議席に達しない議会)が発足し、二極構造となった政治情勢を持つ二分化国家が新しくあらわになったのです。
5. シンプルさを求めて
情報という観点では、シンプルさが一層求められるようにいなっています。「情報量は減らしたい。けれども、明確な情報が欲しい」という声が聞かれます。消費者の間では、製品に必須項目を掲載したラベル(消費者にとって最も適切なラベル)を付けてほしい、消費者が信頼できる情報を提供してほしい、といった声が高まっています。つまり、ブランドが、情報が無秩序に溢れている状態の中で存在に気づいてもらうためには、あらゆる手段を使って、友好的な本物の組織として自らを売り込まなくてはなりません。それが実現してはじめて、人々と対話できるようになるのです。
6. 「より少ない」は「斬新で豊か」に変身する
特定の原材料を使っていない、あるいは、削減した製品、「~の入っていない」、あるいは「~がない」のセグメントが継続的な成長を遂げていることがわかります。必要栄養量に制限がある人のために「~がない」製品を多数用意して組み合わせられるようにしたところ、これを機に、「~がない」製品を求める動きが主流となりました。今では全消費者が利用しています。このようなトレンドが形成されたことで、製品の認識されている価値は“豊富”にすることだけではなく、"削減“を丹念に準備して実施することで高めることができることが浮き彫りになりました。
7. アイデンティティの構築過程にあるブランド
ブランドには社会の価値やビジョンを明確化するという役割が託されています。また「政治的」な役割と伝統的な企業イメージに対する不信感を補完する役割も担っています。ブランドは歴史的に社会に意味や価値を与えるだけでなく、社会を理解するためのカギとなる傾向が見られます。しかし徹底的な透明性を求められる時代においては、ブランドの発言はブランドそのものを反映していなくてはなりません。このような反映が実現してはじめて、対外的なブランドイメージ(購入の選択肢を考慮するうえで、この“イメージ”の重要度は、ますますアップしている)を企業文化によって支えられるようになるのです。そのためには何年もかけて社会性や評判を構築し、リレーションシップ・マーケティングを行うことです。もはや製品性能によってブランドを選ぶ時代ではなくなっています。ブランドは現在、ブランド自身が具現化した価値や消費者に呼び起こした感情などで選ばれるようになっています。
8. テレビのさまざまな姿
テレビはマルチプラットフォームで利用できるものです。したがって、テレビはこれまでどおりそこに生まれた機会を他のメディアよりもうまく利用することができます。また、イタリアの一般国民はテレビ画面を好みながらも、デジタルデバイスを通じてオンデマンドでテレビのコンテンツを楽しむことに慣れ親しんでいます。すなわち視聴者は、番組放映スケジュールからますます切り離された生活をするようになっており、テレビ鑑賞は個人の予定や生活リズム、個人の好みによって調整できるアクティビティへと姿を変えているのです。消費パターンがこのような進化を遂げたおかげで、新しい市場や、新しく収益を得る機会も生まれました。2015年にイタリアでサービスを開始したネットフリックスに続き、主要グローバル企業のアマゾンプライムビデオがイタリアに上陸した2017年には、オンデマンド・ビデオサービスの統合が発表されました。
9.(一貫して続く)情報危機
伝統的な情報産業はすでに危機的状況下にあり、この状態はしばらく続いています。紙媒体の読者数は減り、その普及率も低下、そして広告収益も着実に減少しています。これにはいろいろな理由がありますが、重要な理由の一つとして「このセクターでは、マルチプラットフォームのデジタルコンテンツに姿に変えたとしても収益をあげられるビジネスモデルが存在しない」ことがあります。とりわけ紙媒体においては、それがデジタル化されたとしても難しい状況は変わりません。デジタル化は、消費者が直接利用できるソースがふんだんにある、競争の激しい、拡大が進む分野にあえて参入することを意味するからです。そういった分野では中心に読者が据えられており、その傾向がますます高まっているのです。このような状況は、新聞の「権威」というコンセプトを蝕み、さらには読者の“自主性”や“好奇心”を限りなく増進させました。
10. フェイクニュース:2017年最大の話題
2017年はイタリアに非常に関係の深いテーマとして「フェイクニュース」が選ばれた年であり、また、フェイクニュースに対し主要企業が対応策を講じるようになった一年でもありました。フェイスブックとグーグルは、一連のイニシアチブを導入し、主に次の3つの方向性で取り組みを行っています。まず一つ目として事実照合サービスを充実させ、その存在が目立つようにすること、二つ目に、アルゴリズムでソーシャルネットワーク上の話題の統制に専念する人を増やすこと、三つ目に、真実と信頼性の証明という条件に対応する、見た目でコンテンツを識別できるソリューションを見出すこと、です。フェイクニュースの急増でインターネットとソーシャルメディアの信頼感がますます失われる事態となりました。ですがこれらの一連の対策は「信頼はすでに著しく失墜している」というシナリオのもとに、講じられています。