2017年に世界が懸念していたのは?

年間を通じて毎月、イプソスの「世界の懸念事項(What worries the world)」調査シリーズでは、世界26か国の18,000人を超える市民で構成されたオンライン・サンプルを対象に、「自国における最大の懸念事項」について聴取を行ってきました。この調査では、犯罪や暴力から幼少期の肥満まで、多岐にわたる17の懸念事項をリストアップし、それらについてアンケート調査を行っています。

昨年で7年目となるこの調査シリーズに、ヘッドラインとして掲載されているのは以下の項目です。

  1. 世界は、わずかに楽観思考に転じた:「自国は正しい方向に向かっている」と回答した割合は40%で、2016年の37%から上昇している
  2. 2017年を全体的に見ると、失業率が最大の懸念事項という位置を維持した。しかしこの1年で「貧困・不平等」および「腐敗」に対する優位幅は減少した
  3. 失業に対する懸念度の減少は、カナダやアメリカなどの職業の安定に対する懸念度が大幅に下降したことに起因する

本年度の調査レポートにおいては、最も懸念されていた事柄のトップ3(失業、金融/政治腐敗、貧困/不平等)のそれぞれについて、最も高い懸念を示した国 はどこかについて調査を行いました。

この調査結果によると、どの調査対象国でも広く抱いている懸念は「失業」でした。対照的に「貧困・不平等」については、経済国として確立されている国の市民の間でより懸念されています。一方、新興経済国では、「金融/政治腐敗」が最大の懸念とされていました。

自国は正しい方向に向かっているのか?

イプソスはこの調査で、市民の懸念事項についての質問のほかに、「自国が向かっている方向性」について評価してもらいます。つまり自国が「正しい方向に向かっている」と感じるか、あるいは、「間違った方向」かどうかを質問します。2017年においては、世界の調査対象者の40%は、「自国は正しい方向に向かっている」と感じており、前年の37%から3%上昇しました。中国の対象者は「自国の向かっている方向」について楽観視している人の割合が90%と、最もその傾向が強い状態を維持してしており、2016年の88%からさらに上昇ました。

しかし、世界の過半数(60%)は、依然として悲観的です。自国の方向性における楽観視ランキングの下位には、2016年の調査結果で下位だった国名も見られます。ブラジル、メキシコ、および南アフリカの国民においては、「自国が正しい方向に向かっている」と回答した割合は、前年比でほぼ横ばいの15%以下でした。そこに新しく加わったのは、20%から15%に滑り落ちたイタリアです。一方、フランスでは楽観視している割合が13%から26%に倍増しました。

自国の方向性に関する楽観度のパターンは、イプソスの「グローバルトレンド調査(Global Trends Survey)」レポートの「楽観度、二分される(Optimism Divide)」がそのまま反映された結果となりました。アジアの新興市場の生活者は、楽観的思想があふれていますが、既に経済が確立されている国の国民(特にヨーロッパの人)は、より悲観的な傾向にあります。

2017年の振り返り

2017年12月は、「世界の懸念事項(What Worries the World)」シリーズにとって重要な1か月となりました。この調査を2010年3月に開始して以来はじめて、「失業」が、世界最大の懸念事項の第1位から外れたのです。「失業」を懸念事項に挙げた対象者の割合は33%で、「金融/政治腐敗」(36%で第1位)、「貧困・不平等」(34%)に次いで第3位の懸念事項となりました。

長期間にわたりトップを占めてきた「失業」を下位に追いやった要素の一つに、既存市場において失業に対する懸念が大幅に縮小したことがあります。2017年1月から12月にかけて、カナダにおける「失業」への懸念は17%、アメリカでは11%、ポーランドでは10%、ロシアとスウェーデンでは9%減少しました。対照的に、新興市場においてはその懸念が最大幅で増加しました。中国では6%、トルコとペルーでは4%上昇しています(とは言え、これらの国ではいずれも、「失業」は最大の懸念事項ではありませんでした)。

2017年全体のスコアを見ると、世界の懸念事項に生じていたこのような変化は表面化していません。年間を通した「失業」の懸念度は36%と、僅差で首位を維持しています。年間で見た「金融/政治腐敗」のスコアは年間で34%、同様に、「貧困・不平等」は33%でした。

他の懸念事項の順位は、前年比でわずかに変化したにすぎません。「犯罪・暴力」が、2016年と同様、懸念事項第4位でした。そして、「医療」は2%上昇して23%を記録しましたが、5位を維持しました。「小児肥満」と「融資」の懸念度は、それぞれ3%、2%と、最も切迫度の低い懸念事項となっています。

2018年の見通し

2018年に、私たちが懸念している事項は何でしょうか?前半の数か月で行った調査によると、私たちは、新しい段階に突入したことがわかります。世界の懸念の矛先は、もはや、「失業」という単一の問題に集中しているわけではありません。代わりに、各国では、その国や地域の要素によって、3大重要懸念事項のうち1つの優先度が高くなっています。イプソスは、「失業」、「収賄」、および「不平等」を3大懸念事項として設定しました。これらは、理由こそそれぞれ異なっていますが、近々変化する可能性が低い懸念事項です。

また、他の懸念事項が、これらトップ3を抜くような事態にはなりそうにありません。「犯罪・暴力」と「医療」は、それぞれ4番目と5番目に大きな問題となっており、2010年に「世界の懸念事項(What Worries the World)」調査を開始して以来、同じレベルを維持しています。今後も、同じくらいの懸念度を維持すると見込まれます。

「自国は正しい方向に向かっている」という観点では、わずかですが、楽観的な動きがみられます。2016年以降はこれまでにそのスコアが2%増となり、これからも継続しそうです。特に、「失業」という懸念が衰えてきたことと、世界の経済環境が好転しているという背景が、その原因と考えられます。イプソスの調査対象国には、ユーロ圏経済に属する国もいくつかあります。それらの国々は以前は悲観的傾向にありましたが、現在は経済成長を遂げており、これによって、楽観主義傾向も強まると思われます。しかしながら、近い将来、世界の楽観・悲観のバランスが、大きく楽観に傾くことはなさそうです。

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