ポピュリズムの先にはなにがある?あれから2年
イギリスのEU離脱、そしてドナルド・トランプ氏が大統領選に勝利してから2年が経過しました。そこでイプソスは、改めてポピュリズムと“体制崩壊”の感情というトピックに立ち帰り、世界25カ国で大規模なアンケート調査を実施しました。
この調査で「2016年に比べ自国は弱体化している」と考えている人が少なくなったことは明らかになりましたが、まだ多くの人が「現体制は自身にとって向かい風」であり、「自身は伝統的な政治体制から疎外されている」と考えています。また過半数の人がルールを破ろうという意思がある強きリーダーを求めています。
この調査は、アルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、チリ、フランス、ドイツ、イギリス、ハンガリー、インド、イタリア、日本、マレーシア、メキシコ、ペルー、ポーランド、ロシア、スペイン、サウジアラビア、南アフリカ、韓国、スウェーデン、トルコ、アメリカの16歳~65歳未満(カナダ、アメリカでは18歳~)人々を対象にオンライン調査で実施されました。調査結果からは反体制の傾向はわずかに減少しているものの、政治的な不安感が増す可能性がまだ顕在していることがうかがえます。
国は弱体化しているのか?
平均では、24か国の調査対象者の44%が「自国は弱体化している」と回答し、2016年の57%からこの割合は減少しました。「弱体化」の認識がもっとも強かった国はブラジル(67%)で、南アフリカ(64%)、アルゼンチン(58%)が続きます。マイナス思考の傾向が比較的低かった国はチリ(24%)、ドイツ(25%)、カナダ(30%)、韓国、インド(両国とも31%)でした。
2016年には、「自国は弱体化している」と過半数の人が考えている国は、24か国中15か国でした。しかし現在、その数は6か国にまで減少しています。大きな変化が見られたのは韓国でした。大統領の弾劾へと発展した政治スキャンダルの最中、「自国は衰退の一途にある」と考えていた人の割合は73%でしたが、現在もこのように考えているのは31%のみです。そのほか、楽観主義へ著しく方向転換した国としてあげられるのは、ベルギー、イタリア、スペイン、フランス、メキシコ、ドイツです。特にドイツにおいては「弱体化の感覚」は2016年に記録した47%から25%へと、ほぼ半減しています。今回ドイツは、カナダやチリなどの最も楽観的な国に仲間入りを果たしたわけです。インド人の悲観的傾向が高まり(22%から31%)ましたが、他のほとんどの国よりも楽観的傾向は高い水準で維持されています。
体制は崩壊したのか?
しかし、「責任を担う側の人が、一般人ではなく、裕福かつ有力な層を大切にしている」という感情は、2年前よりもわずかに減少したものの、依然として強いいまま残っています。グローバルの平均では、63%の調査対象者が「自国の経済は、裕福かつ有力な層に有利に機能する体制になっている」と考えていますが、この割合は2016年の69%より減少しています。この割合が特に高かったのはロシアとハンガリーです。また、南アフリカにおけるこの割合は2年連続で上昇しています。一方、イタリアでは、反体制的な感情が2016年には75%の人に見られましたが、現在は56%にまで減少しました。イタリアよりも、反体制的感情を持つ人の割合が低かった国としはマレーシアとスウェーデンのみです。
23か国では過半数の人々が「自国の伝統的な政党と政治家は、一般人のことなど気にとめていない」と感じており、この数値は平均で2016年の64%から59% に減少しました。また、ここでも最も上昇幅が大きかったのは南アフリカで、2年前の65%から現在70%に上昇しました。南アフリカよりも現在この割合で勝っているのはメキシコのみとなります。このトレンドを追随するように、イタリアの反体制感情は引き続き減少し、現在「既存政党に疎外されている」と感じている人の割合は51%となりました(2016年は72%)。この数字がグローバルの平均以下だった国には、ドイツ、スウェーデン、日本があります。
グローバルの平均では「率直に考えを述べる政治家を好ましいと思う」人の割合は59%となっており、この数字は2016年の65%からは減少しています。率直な政治家を好む割合が高かった国は、ロシアとハンガリー(73%)でしたが、一方で低い傾向にあった国は、アメリカ(2016年の60%から48%に減少)、日本、トルコでした。
「政府当局は、犯罪に対して厳しく対応していない」と考える人の割合は、国によって大きく異なっているものの、全体では62%がそう考えています。特にラテンアメリカの国々や南アフリカでこの割合は増加の一途をたどっています。この問題について意見が最も大きく分かれたのはアメリカで、21%は「当局は、厳しく対応している」と考えていますが、「十分に厳しいわけではない」と考える人も35%います。
ポピュリズム系のリーダーシップは支持されているのか?
グローバルの平均では、52%が「ルールを破る意思のある強力なリーダーが必要」と回答しており、この数字は2016年の49%からわずかに上昇しています。しかし、これは各国でばらつきが見られます。アルゼンチン、メキシコ、スペイン、ペルーでは、大幅に割合が増加し、ポピュリズム系のリーダーシップを最も熱心に支持しているインドなどの国に仲間入りしました。
反体制のリーダーに対して立ち向かう波もみ見られます。特にフランスは、この数値は2016年(80%)に最高を記録しましたが、現在は、61%まで減少しました。同じく、ポーランドとイタリアでも減少しています。スウェーデンでは、ポピュリズム系のリーダーシップに反対を示す割合は32%から23%に減少し、ドイツと同じく、引き続き、支持度が最も低い傾向にある国になっています。
既存政党に対する支持は低く、「自国は以前政権の座に就いた経験のある政党や政治的リーダーを堅持すべきだ」と回答する人の割合は21%に止まりました。「自分は現体制に疎外されている」と感じる傾向が最も強かったのはフランス人、イタリア人、ポーランド人でした。
一方で、39%の調査対象者は、これまでに政権に就いたことのない、急進的な計画を打ち出している政党を選出するにはリスクが伴うと認識しています。その傾向が最も強かったのはペルー、ブラジル、ロシアで、まだ試されていない政党を受け入れる意思が比較的強かったのはイタリア、スウェーデン、イギリスでした。
組織や機関を信頼できるか?
「政党は信頼感に欠ける」と回答した人の割合は79%にのぼっており(どの国でも過半数以上)、2016年から実質的に横ばいとなりました。また、「自国の政府は、信頼感に欠ける」と回答した割合は66%となっています。スペインとラテンアメリカ全域では、政党と政府の両方に対する信頼感が特に低い結果となりました。対照的に韓国とイタリアでは、政府に対する認識に最も急激な改善が見られました。
「メディアは信頼感に欠ける」と回答した人の割合は65%で、2年前からあまり変化は見られませんでした。 ハンガリーでは今回も信頼感が特に低い結果となり、信頼に欠けると回答した人は85%でした。トルコではこの割合が2年前に比べて増加して78%に上りました。意見の二分化が進んだのはインドとドイツでした。
「国際機関は信頼感に欠ける」と回答した人の割合は、グローバルの平均で半数に満たない47%となりました。2016年の52%からわずかに改善しています。スペインは、イタリアやほかのヨーロッパ諸国と並び国際機関に対する信頼感が最低水準ではありますが、「信頼感に欠ける」と回答した人の割合は77%から65%に減少しました。
グローバルでは過半数の人々が銀行(52%)や大企業(56%)は信頼感に欠けると回答しましたが、2016年と比較するとわずかに改善が見られます。インド、サウジアラビア、マレーシアは銀行、大企業のどちらにも信頼感を抱いており、スペインとイタリアは銀行に対する信頼感が低い結果となりました。
「司法制度は信頼感に欠ける」と回答した人の割合は若干の変化が見られ、59%から56%に減少しました。ハンガリー、メキシコ、ブラジルでは改善しましたが、ラテンアメリカ諸国ではまだ不安が大きく、ペルーでは81%が「信頼感に欠ける」と回答しました。
排他的な国 vs 開かれた国?
全体を通していると、「自国を世界から守るべき」か、あるいは「世界に対して開かれた国にすべき」については、意見が分かれています(グローバル平均で31% vs 35%)。また、2016年と同様に、3人に1人は「わからない」と回答しました。自国を守ることを熱心に支持していた国には、オーストラリア、アメリカ、カナダなどがありますが、対照的に、メキシコやペルーは、自国を「世界に対して開かれた国にすべき」だと考えています。
ブラジルやフランスでは、「世界に対して開かれた国にしよう」と強く求める機運が高まっていますが、スペイン、スウェーデンでは減少傾向が見られました。
「アメリカは、今日の世界から自国を守る対策を講じるべき」というアメリカ人の感情は衰退傾向にあり、2016年の47%から37%に減少しています。