インド市場調査ガイド|ビジネス成功のために押さえるべきポイントとは?
インド市場に参入したい企業必見!現地事情に精通した市場調査のプロが、文化的留意点から市場調査手法まで、インドの市場調査を成功させるためのノウハウを網羅的に解説。
人口14億人を超え、急速な経済成長を遂げるインドは、世界中の企業にとって極めて魅力的な市場です。一方で、多様な文化・言語・宗教が複雑に絡み合うこの国を正しく理解し、効果的な市場調査を行うには、通常のアプローチでは限界があります。本記事では、インド市場の基本情報から、市場調査を成功させるための実務的な視点・留意点までを包括的に解説。インド市場を検討するすべてのビジネス関係者にとって、第一歩となるガイドを目指します。
このページでわかること:
インドの基本情報
インドは、昔から多くの探検家たちによって記録され、その豊かさが語り継がれてきた、多様性あふれる国です。ヒマラヤ山脈や砂漠、海に面した地域や深い森など、目を奪われるような自然の景色と、エネルギーに満ちたインドの文化は、今も多くの人々を惹きつけています。
インドは長く複雑な歴史を持ち、それがインドの多様性の重要な側面となっています。インドは世界で最も精神的な国の一つでありながら、公式の宗教は存在しません。インド人の80%以上がヒンズー教徒、13%がイスラム教徒で、その他に仏教、シーク教、ジャイナ教などが信仰されています。
人口: 14億5千万人(2024年) | 一人当たりGDP: 年間25万ルピー(2024年) |
通貨: インドルピー - INR (₹) | GDP成長率: 6.5% (2024年推定) |
主要都市 | 人口(百万人) | 言語 |
ムンバイ | 21.6 | ヒンディー語 - 528,347,193 |
デリー | 33.8 | ベンガル語 - 97,237,669 |
コルカタ | 15.5 | テルグ語 - 81,127,740 |
チェンナイ | 12.05 | マラーティー語 - 83,026,680 |
バンガロール | 14 | タミル語 - 69,026,881 |
ハイデラバード | 11.06 | ウルドゥー語 - 50,772,631 |
アフマダーバード | 8.85 | グジャラート語 - 55,492,554 |
プネ | 7.3 | カンナダ語 - 43,706,512 |
スーラト | 8.3 | マラヤーラム語 - 34,838,819 |
ジャイプール | 4.3 | オリヤー語 - 37,521,324 |
パンジャブ語 - 33,124,726 |
2019年、インド経済は名目GDPで世界第5位、購買力平価(PPP)では世界第3位でした。インドは新興工業国、G20主要経済国、BRICS諸国、そして発展途上国に分類されています。インド経済は2014年第4四半期に中華人民共和国に代わり、世界で最も急速に成長した主要経済国となりました。
インドの特徴
インドはモバイルファーストの国
- 2024年現在、インドのスマートフォン普及率は約46.5%(investindia.gov)。
- インドのスマートフォン市場は、2024年第3四半期に、販売台数では世界第2位、金額では第3位の規模を誇る市場となりました。
- 通信加入者数の増加 - 11億8,992万人(2024年12月)(ビジネススタンダード)。
- 2024年の初めの時点で、インドには7億5150万人のインターネットユーザーがいます。
- インターネット普及率は52.4%(Statista)。
- 2024年4月、UPIは約133億件の取引を処理しました。
文化的プロフィール
インドは28の州、8つの連邦直轄領、そして793の地区(リンク)に分かれています。地区は、方言、料理、文化的伝統などの共通性に応じて、社会文化地域(SCR)に分類されることがあります。
インドは民族的多様性の国
インドは多くの民族が共存する国で、アーリア系、ドラヴィダ系など異なる人種や文化が混ざり合っています。言語や宗教も多様で、世界でも最も民族的に多様な国の一つとされています。
宗教の多様性
インドは世界のどの国よりも多くの宗教を実践しています。
- ヒンズー教徒 - 9億6630万人
- イスラム教徒 - 1億7220万人
- キリスト教徒 - 2,780万人
- 仏教徒 - 840万人
- ジャイナ教 - 450万人
- シク教徒 - 2,080万人
- その他の宗教 - 790万人
- 記載なし - 290万
言語族
- インド・アーリア人(人口の約 75%) - 北インド、中央インド、西インドに居住。
- ドラヴィダ人(人口の約20%)
- その他(人口の約5%)
- オーストロアジア人(インド中部および東部のムンダ族とカーシ族)
- チベット・ビルマ語 (インド北東部)
- アンダマン人(アンダマン・ニコバル諸島の先住民族)
言語の多様性
ヒンディー語は人口の43.63%が話しています。しかし、インド憲法では22の言語が公式に認められています。言語調査によると、インドでは19,500以上の方言が母語として話されています。
文化の多様性
インドはお祭りやフェアの国であり、毎月必ず何らかのお祭りやフェアが開催されます。インドのお祭りは、色彩、華やかさ、熱狂、祈り、そして儀式を象徴しています。他国からインドを訪れる人々は、インドのお祭りやフェアの規模と多様性に驚嘆します。インドで市場調査を行う際には、プロジェクト計画に祭りの時期を考慮することが重要です。
食の多様性
インドの豊かな文化は、その料理のレパートリーに反映されています。「インド料理」という名称は、インド各地の味覚が融合したものであり、また何世紀にもわたる世界中の人々との文化交流の賜物でもあります。
インドでの市場調査:3つの要素が生む複雑さ
消費者や有権者、企業、専門家など、さまざまなステークホルダーの声を正確に反映した市場調査を行うためには、「包括性(インクルージョン)」の確保が不可欠です。背景や価値観の異なる多様な層を公正に取り込まなければ、対象とする市場や集団の実態を正しく把握することはできません。特に、対象となる人口が多様であればあるほど、その全体像を的確に捉えることは一層難しくなります。
1. 地理の多様性と生活の違い
インドでは、データ収集がいまだに対面中心です。都市部は人の流動が激しく、正確に代表するのが難しいです。農村部はアクセスが悪く、調査員は長距離の移動や未舗装道路を通る必要もあります。また、気候や農業条件も地域によって異なり、それが食習慣など生活様式に大きく影響します。
例:ある欧州の市場調査で「朝食について聞く」質問がありましたが、インドでは「朝食」という概念自体が地域によって異なり、的確な回答が得られない地域もあります。そこで、「その日最初の食事は何ですか?」のように、前提を疑い文脈に即した設問を立てることが必要です。
2. 言語と文化の多様性
インドには22の公用語があり、それらは14の異なる文字体系で書かれます。これは単なる翻訳の問題ではなく、それぞれの言語が持つ文化的背景(価値観、信仰、行動様式など)まで配慮する必要があります。
例:動機に関する調査で「親しみやすさ(congeniality)」といった概念を全言語に翻訳しようとしても、適切な語が存在しない場合もあります。英語からの翻訳ではなく、まず現地語で考え、そこから翻訳する姿勢が重要です。
3. 教育レベルの違いと調査手法
インドでは読み書きができない人も多く、欧米で一般的な「自己記入式アンケート」は機能しません。調査員が質問を読み上げて回答を記録するのが一般的です。この方法は、読み書きが苦手な人も含められる一方で、行動記録(例:日記形式の調査)などには向きません。
また、デジタル機器にアクセスできない人々は、オンライン調査から完全に排除されてしまいます。反対に、都市の富裕層は自宅訪問が難しく、オンラインでしか接触できない場合もあります。よって、調査モードの使い分け(ハイブリッド手法)が必要です。
インドの定性調査
インドの多様性は他に類を見ないものであり、多様な地形的特徴と文化的パターンが見られます。インドは多くの言語が話される国であり、世界の主要な宗教を全て信仰しているのはインドだけです。宗教的、地域的、言語的、身体的、そして文化的に多様性に富んでいるため、インドにおける市場調査は複雑な作業となります。
対面フォーカスグループとスケジュールに関する一般的なヒント
タイミング
- インド人は時間に正確ではないので、グループや交流の開始には 15 ~ 20 分の遅れが生じることを想定してください。
- 働く男性/ビジネスマン向けの交流は午後 7 時以降に予定されています。働く女性の場合、交流は午後 5 時 30 分以降に予定されています。
- ほとんどの大都市では交通がかなりひどいので、グループが長くなるとほとんどの人がイライラし始めます。
ロジスティクス
- 距離が長いため、場所間の移動に少なくとも 1.5 ~ 2 時間の移動時間を見込んでおくとよいでしょう (どの都市でも反対方向に行く場合)。
- 週末のフィールドワークは、家族と過ごす時間があるためお勧めできません。また、人々は侵入を好みません (民族誌的な交流でない限り)。
モデレーションのヒント
- インド人は話すことを好むため、手書きの日記はあまり役に立ちません。
- インド人は対面でのやり取りを好むため、電話でのやり取りはインドではうまく機能しません。
- インド人は本質的におしゃべりなので、セクションのタイミングに関してガイドが明確に定義されていることが重要です。
インドの定量調査
対象者の選定基準:SEC(社会経済クラス)が重要指標に
他国では「年収」や「世帯収入(MHI: Monthly Household Income)」が調査対象の基準となることが多い一方で、インドではSEC(Socio-Economic Classification)がより一般的です。
MHIは申告ベースで正確性に課題があるため、教育水準や職業、住環境など複数の要素をもとに生活レベルを評価するSECが代替指標として活用されています。
サンプリング手法の違い
インドでは、多くのリサーチがクォータ制や目的抽出(Purposive Sampling)によって設計されています。これは、特定カテゴリの購入者や利用者など、調査目的に関連する層を効率的に収集するためです。
たとえば「化粧品の使用実態調査」であれば、単に「20代女性」ではなく、「過去1か月以内に特定カテゴリを使用した人」といったソフトクォータ(行動基準)も組み込まれます。
消費頻度と対象者の関連性:若年層・低SEC層は実際の関与度が低い傾向
一部の製品カテゴリでは「普遍的に利用されている」とされる場合でも、年齢層が若い、または低SEC層では消費頻度が低く、調査データの有効性に影響を及ぼすことがあります。
そのため、たとえば世代全体(General Population)を対象に市場調査をする場合でも、カテゴリとの関与度を考慮し、サンプル設計において調整が必要です。
地理的カバレッジ:全国代表ではなく「都市部中心」が一般的
他国では「全国調査」が前提となるケースが多いですが、インドでは都市部の中でも購買力が集中する都市圏(メトロ・ミニメトロ)にフォーカスすることが一般的です。
たとえば、デリー、ムンバイ、バンガロールなどの都市と、チェンナイやプネなどのミニメトロでは、インド都市部のFMCG(消費財)売上の約50%を占めています。
一方で、東部など一部地域は経済規模や購買力が低いため、調査対象から除外されることもあります。
まとめ:インド市場調査成功のカギは「多様性」への理解
インドでの市場調査は、国の持つ多様性ゆえに非常に複雑ですが、適切な戦略と配慮により、的確なインサイトを得ることが可能です。地理・文化・言語・教育水準・テクノロジー環境など、あらゆる面でのバリエーションが大きく、定性的・定量的調査ともに柔軟な設計と運営が求められます。特にSECを基準とした対象者の選定や、都市部中心のサンプリング設計が実務上の現実的な手法とされており、目的に応じた最適なフレーム設計が成果の鍵となります。成功する市場調査のためには、インドの「多様性を前提とした調査設計」が不可欠です。
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