なぜ48%の顧客体験は記憶に残らないのか?
CX Global Insights 2026から見える、顧客体験の新たな課題
企業のCX(カスタマーエクスペリエンス)向上への取り組みは年々活発になっています。多くの企業がデジタル化やオムニチャネル化、問い合わせ対応改善などを進め、顧客の不満解消に力を入れています。
しかし、それにもかかわらず、顧客はその体験を本当に覚えているのでしょうか。
Ipsosが世界23か国・約8.5万件の顧客評価を対象に実施した「CX Global Insights 2026」では、43%が良い体験、15%が悪い体験と回答した一方で、最も多かったのは「特に印象に残らなかった体験」で48%に達しました。約半数の顧客体験が記憶に残っていないという結果です。

「問題がない」だけでは顧客の記憶には残らない
多くの企業はCX改善というと、「不満を減らすこと」を目標に置きます。
たとえば、以下のような取り組みです。
- 問い合わせへ迅速に回答する
- 手続きの利便性を高める
- エラーやトラブルを減らす
もちろんこれらは重要です。しかし顧客にとって、それは期待通りに機能したに過ぎません。
今回の調査では、世界全体のCX評価を左右する要因として、「確実性(Certainty)」や「公平な扱い(Fair Treatment)」といった基本要件が依然として重要であることが確認されました。
一方で、それらを満たすだけでは顧客との強い関係構築にはつながりません。
不満はない。しかし誰かに話したくなるほどでもない。
そんな「平均的な体験」が増えていることが、48%という数字の背景にあると考えられます。
顧客が覚えているのはプロセスではなく感情

調査では、顧客はCXを単なる手続きやプロセスとして記憶しているのではなく、「そのとき自分がどう扱われたか」を覚えていることが示されています。
例えば、以下のような体験です。
- 自分の状況を理解してもらえた
- 大切に扱われた
- 安心感を得られた
- 面倒なことを代わりに解決してくれた
Ipsosではこれらを「Forces of CX」として整理しており、なかでも 所属感(Belonging)、特別感(Status)、楽しさ(Enjoyment)は、企業間の差別化につながる感情的価値として位置付けています。実際、感情的なつながりを持つ顧客は、そうでない顧客と比較して、継続利用意向・NPSなどあらゆる指標で高い結果を示しました。
CXの次の課題は「記憶に残る体験」の設計
企業にとって重要なのは、悪い体験を減らすことだけではありません。
これからのCXでは、
「顧客の期待を裏切らないこと」
から
「顧客の記憶に残ること」
へと視点を広げる必要があります。
特にAIや自動化が進む中で、多くの企業が同じような利便性を提供できるようになっています。その結果、機能的な品質だけでは差別化が難しくなっています。CX Global Insights 2026でも、今後のCXリーダー企業は感情的なつながりを生み出せる企業であると指摘されています。
顧客にとって「問題がなかった」体験は、時間とともに忘れられてしまいます。一方で、「自分は大切に扱われた」と感じた体験は記憶に残り、継続利用や推奨へとつながります。
約半数の顧客体験が記憶に残っていない今だからこそ、自社は単に不満を減らしているのか、それとも顧客との感情的なつながりを生み出せているのかを改めて見直すことが、CX向上の第一歩になるのではないでしょうか。