変化を促すもの:ステークホルダーマネジメントの役割

確かにESG の背景にあるコンセプトは新しいものではなく、数十年にわたり企業戦略の中心にありましたが、ESGが明確なミッションとして普及し、正式に位置づけられるようになったことは、変化のきっかけとなりました。この変化の影響は、企業がステークホルダーをどのように定義し、プライオリティを置き管理していくかを含め、広範囲に及んでいます。これはステークホルダー資本主義の台頭によって証明されており、企業はもはや株主や所有者だけのために利益を生み出すのではなく、より幅広いステークホルダーのために価値を生み出す責任があるという考え方です。

ステークホルダーマップ上における登場人物の変化とともに、企業はステークホルダーの期待の変化や進化を管理しています。かつては政府やNGOの管轄であった問題は、今や企業のアジェンダにしっかりと組み込まれており、ステークホルダーは企業が影響力を高めるために果たすべき役割を明確に認識しています。そしてつまるところステークホルダーも一般市民であり、彼らの懸念がより広範な社会の懸念と一致するのは当然です。

幸いなことに、ヨーロッパや世界の他の多くの地域では企業に対するステークホルダーの強い見解や期待があり、それらのほとんどは社会が直面する外的要因によって作られている。

その結果、典型的なステークホルダーマップは大きく揺らぎ、新たな課題やステークホルダーグループの優先順位が上がり、ステークホルダーマネジメント戦略の刷新が必要となっています。 ESG協議会メンバーと共に行った調査では、企業がこの変化をどのように乗り越えているかという点で様々なケースがある事が明らかになりました。

内的要因と外的要因

ESGの台頭とそれに伴う企業行動の変化は、ステークホルダーからの外的圧力に端を発していることは間違いない、というのが強いコンセンサスです。さらに踏み込むと、外部からの圧力がなければ環境や社会への影響がどうであれ、企業は何よりも利益を追求し続けただろうと主張する人もいます。

私の経験では、これらはすべて顧客、ステークホルダー、または政府機関が最初に問題を強要したためである。

しかし協議会メンバーは、外部のステークホルダーからの働きかけは必ずしも十分な情報に基づいているとは限らず、その結果、サステナビリティに関係のない活動や、事業環境から見て実現不可能な活動、あるいは企業の具体的なESG目標に合致しない活動が求められることになりかねないとしています。

ステークホルダーの視点に厳密に従えば、再利用が常に最良のモデルであると言うことになるが、気候の観点から見るとそれが常に最善とは限らない。多くの場合それがベストだが、常にそうとは限らない。ゆえに理想論だけでなく、実践的な観点からも考えなければならない。

「信念と真実のギャップ (The believe-true gap)」はこの課題をさらに明確に示すもので、消費者はどの行動がサステナビリティに最も大きな影響を与えるかについて時に間違った情報を得ているのです。

このことは消費者からシニアステークホルダーに至るまで、ESGに関する教育を強化する必要性を示唆 しています。また企業が信頼され、 ESGについての議論に携われる資格を有することも重要であり、それによって企業が特定のアプローチが適切でないと言う場合、代替案について信頼に足る議論ができるようになることの重要性も強調しています。

多くの人は外部のステークホルダーの役割は認めつつも、外部からの圧力が社内の有意義な変革にどの程度結びつくかは、最終的にはリーダーの意志にかかっていると感じています。

 

 

さらに先を見据えると、ESG戦略を策定するために外部のステークホルダーの圧力に応じることは、結果的に企業が後手に回り、新たなリスクの影響を受けやすくなると多くの人が感じています。

また協議会メンバーは、一つの要因による変化は短命に終わる可能性が高く、長期的でサステナブルな変化は、外部からの圧力と、企業の価値観や文化、ビジネス上の課題、市場機会といった他の要因との間に整合性がある場合に起こると認識しています。
このような整合性をもってビジネスを展開することで、企業はESG戦略をリードし、積極的に行動し、より大きな影響を与えることができるのです。

サステナビリティやどんなプログラム変更も、1つの牽引役しかおらず、企業そのものが主導しないのであれば、定着することはないだろう。

おそらく現実には、外圧によってESG要因に基づく戦略を策定する意欲的なリーダーシップが生まれる火種と、取締役会が最終的にこの戦略を支持する環境が生まれるというような、状況の悪化が必要なのでしょう。

最も重要なステークホルダー

ESGステークホルダーの動向、引いては企業のステークホルダーの動向は、広範かつ複雑で す。伝統的なステークホルダーと新たなステークホル ダーが混在し、セクターや市場によって微妙な違いがあります。しかしESG特有の課題の核心は、企業が様々なステークホルダーに多様なコミットメントを交わす中で、ますます拮抗するステークホルダーのニーズのバランスを取らなければならないということです。このような背景から、ステークホルダーにプライオリティをつけることは大変な作業のように感じられるのです。

以前から多くのステークホルダーが変化を求めて行動を起こしてきましたが、変化が急速に早まったのは、投資コミュニティの注目のおかげであるという意見も多くあります。

投資家が、「あなたは少し出遅れている」と指摘したり、「どこに?」「なぜそうしなかったのか?」と尋ね始めると、あなたも同じ質問をするようになり、それが変化を促す。

また、機関投資家の関心がESGと財務パフォーマンスとの間に確固とした関係を築き、最終的にCSOの役割を明確化し、資金提供につながったと評価する声も多くあります。

 

 

我々は極めて定期的に投資家と 対話をしているが、ここ数年の間に投資家コミュニティと彼らのESGアナリストの間で、サステナビリティ問題に対する質問の幅と深さ、内部知識が大幅に増加していることに気がついた。

それでも、回答者の中には機関投資家が重要視されすぎており、彼らのニーズは他のステークホルダーとのバランスをとるべきだという人もいます。協議会メンバーによれば、機関投資家は数ある重要なステークホルダーの 1 つであり、唯一の重要なステークホルダーではないのです。

消費者は 優先すべきステークホルダー層として確立されている一方、ESGは 複雑さを増し、いち早く対応した企業にはチャンスをもたらしています。消費者市民の理論によると、人々は市民として関心のある問題に基づいて消費者としての意思決定を行うようになっています。社会的・政治的問題と購買行動の融合により、サステナビリティが競争のアドバンテージとなり、成長の原動力となりうるグリーン経済が創出されているのです。

消費者の需要は高まっており、競合他社に後れを取りたくはない。時にサステナビリティは特定の分野で競争優位性をもたらすこともある。

消費者と同様、従業員もステークホルダーマップへの新規参入者ではありませんが、その重要性はかつてないほど高まっています。従業員は自分の価値観と一致する、あるいは少なくとも自分の価値観を損なわない企業で働きたいと考えています。そして、企業価値が最も厳しく問われる場はESG パフォーマンスです。

 

 

社内外のコミュニケーションや行動を調整できる企業は、レピュテーションの高い理想的な環境で運営されています。社内での言動と社外での言動との間にギャップがない場合、信頼とそれに伴うビジネス上の利益は飛躍的に高まります。これらのメリットには、質の高い人材の獲得や維持も含まれます。また、企業のESGに関する公約が現実に実行されているかどうかを明らかにするには、従業員ほど適したステークホルダーはいません。

従業員の中にも強力なムーブメントがあり、現場のイニシアチブを推進し、自分たちが働きたい会社の在り方を押し進めるという点で、従業員は本当に重要な存在だ。

協議会メンバーによると、2000年代には政策立案がサステナビリティの変化を促す重要な原動力であったかもしれないが、現在では政府はサステナビリティ関連の変化を促すリーダーではなく、むしろ遅れをとっていることが多いとしています。そのため、政府は必ずしも企業に多くのことを要求するような、優先リストのトップに立つことを余儀なくされるようなステークホルダーではありません。しかしこれは特に上場企業の報告方法において、ESGに関する世界的な規制の標準化が進むことにより変わる可能性があります。

NGO、特別利益団体、シンクタンク、学識経験者は、企業がネガティブ・インパクトからポジティブ・インパクトに移行する、あるいはすでにポジティブ・インパクトを拡大するためのパイプ役として、特に重要なステークホルダーです。独立した立場の人々との戦略的パートナーシップは、事業のあり方に重大な変化をもたらすライセンスやスキルを持たない企業にとって特に重要です。

ステークホルダーマネジメント戦略

協議会のメンバーが、ステークホルダー・マネジメント戦略を実施し、洗練させていく過程で経験する共通の課題は、ステークホルダー間でESGに関する専門知識のレベルが異なることです。その結果、CSOは技術的専門家と熟練したコミュニケーターの間を取り持つ能力を必要とすることになります。

10年前、我々がESG投資家に話を聞きに行ったときのその数は英国で5人、米国で2人、オーストラリアで3人だった。非ESG投資家と呼ばれる人たちにこのような話題を振っても、彼らは「あまり興味がない」と言うだけだった。今、誰もがESGのスペシャリストになりたがっており、専門的な知識をあまり持っていない人たちが、突然この分野の責任の一端を担うことになる。

ステークホルダーマネジメントをさらに複雑にしているのが、反ESG運動の出現です。この動きの背景にある動機は様々です。一方は、ESGに過度に偏った意思決定のビジネス価値を疑問視する人々です。もう一方は、目覚ましいアジェンダに反対し、ESG問題を本筋から排除しようとする人々です。言うまでもなく、この一連の流れをナビゲートするには巧みなスキルが必要です。

これらの例は、CSO としてのステークホルダーマネジメントの核心は理解する能力であることを強調しています。社内外のステークホルダーと深く定期的に関わり、彼らのニーズを認識し、ビジネスニーズとのバランスをとり、前進するための正しい方法を見出すことです。

ステークホルダーのエンゲージメントは非常に重要であり、もしあなたが影響を与えるさまざまな構成員のニーズを評価せず、その視点を理解することなく目標を設定し、プログラムを定義するのであれば、それは非常に愚かなやり方である。


目次

  1. はじめに:ESG協議会レポート2023
  2. 価値創造の責任者?:チーフ サステナビリティ オフィサー(CSO)の役割の変化
  3. 変化を促すもの:ステークホルダーマネジメントの役割
  4. 統合的なESG戦略の構築
  5. 善いことをしてビジネスを良くする:ESG のレジリエンス、リスク、レピュテーション価値
  6. ESGの未来とは?
  7. ESG - リーダーシップ、集中力、コミュニケーション、そして何よりも行動の時。

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