インドのEVファイナンス事情:環境に優しい未来へ向けて
この記事は、イプソスの自動車セクターエキスパートによる業界動向解説シリーズの一つです。この専門家チームは、自動車業界の最新トレンドについて独自の視点やインサイトを共有するために協力しています。クライアントの皆さまに、調査の観点から見た最新の知見をお届けします。

背景
インドの自動車業界は大きな変革の時期を迎えており、電気自動車(EV)が次世代の移動手段として注目を集めています。このシフトは、私たちの移動スタイルを変えるだけでなく、金融セクター、特に自動車ローンの分野にも革新をもたらしつつあります。
インドの個人向け自動車ローン市場は著しい成長を遂げており、2023年6月時点のポートフォリオ価値は約5.9兆インドルピーに達すると推定されています。直近3年で、自動車ローンは個人向け融資全体の約12%を占めており、金融業界の重要な一部となっています。
進化を続けるインドの自動車業界では、内燃機関(ICE)車が依然として主流を占めています。これらの車両に対する融資オプションは多様で、伝統的な金融機関からディーラーの自動車ローンプログラムまで幅広く存在します。デジタル化、フィンテック業界のイノベーション、個々のニーズに合わせた融資ソリューションなどの新しい潮流が、ICE車両の自動車ローンの未来を形作ると予想されます。
一方、インド政府は2030年までに電気自動車(EV)の大幅な普及を目指しています。二輪車セグメントでは80%、四輪乗用車では30%のEV化を目標に掲げています。このEシフトにより、新たな技術を支える金融環境の進化が促進されています。銀行、ノンバンク金融機関(NBFC)、フィンテックスタートアップが協力し、EV購入に伴う初期費用を抑えるための様々な融資オプションを提供しています。
自動車ローンには主に2つのリスクが伴います。車両の性能、メンテナンス、リセールバリューに関連する「資産リスク」と、顧客の信用力を評価する「信用リスク」です。現在、個人向け二輪車セグメントでは、銀行やNBFCがICE車と比べてEVに1~4%高い金利を設定しているため、頭金と月々の支払額が増加しています。
一方、個人向け四輪車セグメントでは、ローンの条件はICE車とほぼ同じです。商用車セクターにおいては、資産側のリスクが高いことから、EVのローン条件は一般的にICE車よりも不利になっています。
電気自動車(EV)向け融資
インドにおける電気自動車(EV)向け融資は、EVの特性に合わせた新たな金融サービスとして登場しています。EVは初期費用が高くつく一方で、運用コストが大幅に低いため、独特の融資状況を生み出しているのです。
EVファイナンスは、競争力のある金利と長期の返済期間を設定したオーダーメイドのローンを提供することで、高い初期費用が与える経済的負担を緩和し、消費者にとってEVの購入をより手の届くものにすることを目的としています。また、融資オプションは購入意欲を高める上でも重要な役割を果たしています。さらに、金融機関はEVの耐久性やリセールバリューに対する懸念に対処するため、保証、買取保証、包括的な保険商品などを提供し、消費者の不安を解消する取り組みを行っています。
インドでは、EVを都市部の移動手段としてセカンドカーの位置付けで使用する傾向があり、これがEVファイナンスの力学に影響を与えています。このトレンドは、消費者行動、金融機関のリスク評価、融資条件、そして市場全体のダイナミクスに作用し、インドにおけるEVファイナンスのアクセシビリティと成長に寄与しているのです。
しかしながら、EVファイナンスは依然として、高い初期頭金、金利とEMI(ローンの毎月定額払い)の上昇、限定的な融資オプション、高い保険料など、いくつかの課題に直面しています。これらの問題は、EVとバッテリーのリセールバリューが確立されていないこと、発展途上にあるバッテリー技術、信用力評価の難しさ、バッテリー交換に伴う運用とメンテナンスのリスクなどに起因しています。さらに、使用済みバッテリーの価格設定が確立されていないことが、購入者の設備投資負担を増大させています。
イプソスインド 自動車エキスパートの見解
EVファイナンスの分野における課題を克服するには、個人向け金融セクターにおいて、成果主義かつテクノロジー主導のビジネスモデルイノベーションを採用することが不可欠です。この取り組みは、総合的な政策支援と相まって、インドでEVの購入を検討している個人にとってEVを利用しやすくし、手頃な価格を実現するでしょう。
私たちが集中的に取り組むべき分野は大きく2つあります。
- 政府の政策でこれらの課題を緩和できる可能性があります。頭金補助、利子補給、低金利ローン、返済期間の延長などの施策により、EVファイナンスのアクセシビリティとアフォーダビリティを向上させることができます。また、所得税の還付、無利子ローン、EVに対するGST(物品サービス税)の引き下げ、道路税の免除などの措置によって、EV購入時の初期費用を抑えられる可能性があります。
- EVファイナンスの課題に取り組むための革新的な解決策には、グリーンボンドや保証人付きオートローンを通じたリスクの吸収、車両状態追跡やAI・機械学習を用いた信用評価などのテクノロジーの導入、EV用バッテリーの中古価格の確立、EV専用の金融商品の開発などが含まれます。これらのイノベーションは、インドにおけるEVへの移行を大きく後押しする可能性があります。
結論として、インドのEVファイナンスの道のりには課題が山積していますが、革新的な解決策と政府の支援政策を基盤として、様々なステークホルダーの協調した取り組みにより、環境に優しく持続可能な未来に向けて舵を切っています。
変化し続けるインドのEVファイナンスについて、最新の動向にご注目ください。
Written by the Ipsos India Auto Expert Saurabh Sharma