2018年 人権の現状

世界では「自国では、全ての人が、同一の基本的人権を享受している」と回答した人は、10人中たったの4人でした。

主な調査結果:

  • 世界28カ国の調査対象者で「自国では人権は問題ではない」と回答したのは10人中3人のみ。最も少なかったのはコロンビアの17%、最も多かったのはドイツで55%
  • 調査対象者の10人中8人は「人権を守る法律が自国にあることが重要」と強調しており、半数以上が「人権に関する法によって生活が向上する」と回答
  • しかし、3人中2人は「人権を不当に利用している人も一部存在する」と回答しており、「人権による利益を得ているのは、人権を享受するに値しない人だけ」という記述については、不賛同よりも賛同が多いという結果。また、7人中1人が、「人権など存在しない」と回答
  • 10人中4人は、「人権についてほとんど知らない、あるいは、何もしならない」と回答
  • 守られるべき最も重要な人権の上位は「言論の自由」、「生存権」、「自由である権利」
  • 人権を守る必要性があるグループとして広い範囲で認識されているのは「子供」、「障害者」、「高齢者」、「女性」
  • 人権に注力している組織として最も高い認知度があるのは「国連」、「国際赤十字連合」、「アムネスティ・インターナショナル」。次いで「国際人権連盟」、「国境なき弁護士団」、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」。これらすべての組織は有効な仕事をしていると広範で捉えられており、中でも顕著だったのは、国際赤十字連合(ICRC)

イプソスが世界28か国を対象にアンケート調査を実施したところ、「自国では、全ての人が同一の基本的人権を享受している」と回答した調査対象者は43%にとどまりました。これによって、先進国とされている国においても、普遍とされている人権の実態に疑問が投げかけられたにことになります。この項目に「どちらでもない」と回答したのは20%、「そう思わない」と回答したのは33%でした。興味深いのは、ドイツ(63%)と中国(63%)の賛同傾向が最も高く、南アフリカ(25%) とイタリア(28%)が最も低かったことです。

「人権の乱用が問題になっている国も一部あるが、自国においては問題はない」という項目に賛同した割合は31%のみでした。3人中たった1人でした。それどころか、39%はこの項目に賛同せず、自国に人権乱用があることを認めています。「どちらとも言えない」と回答したのは25%でした。「自国では人権乱用は、あまり問題になっていない」という見解が最も多かったのは、ドイツ(55%)、マレーシア(48%)、サウジアラビア(48%)でした。一方で、この項目への反対意見が最も多かったのはコロンビア(69%)で、次いで、南アフリカ、ペルー、メキシコ(3か国全て60%)となっています。

人権が守られる必要性がある人々について16種類のグループをあげて聞いてみたところ、人権が守られる必要性があるとみなされる傾向が最も高かったグループは、子供(世界の調査対象者の56%が選択)、障害者(48%)、高齢者(44%)、そして女性(38%)でした。そのあと、低所得者(30%)、難民(24%)、少数民族(23%)、若者(22%)、ゲイ、レズビアン、バイセクシャル、あるいはトランスジェンダー(21%)、無職(21%)、低学歴者、あるいは無学の者(20%)、移民(19%)、宗教的少数派(15%)、異なる政治的見解を持つ人(12%)、パートタイム労働者(11%)、服役囚(8%)と続きました。「これらのグループの人権を守る必要はない」と回答した割合は2%でしたが、「わからない」と回答した人も10%見られました。

人権の重要性を認めている人がほとんどだが、知識不足も自覚されている

世界28カ国の調査対象者の78%は「人権を守る法律が自国にあることを重要視している」に賛同しました。少ない割合ではありますが「そう思わない」が6%、「どちらでもない」が12%、「わからない」が3%でした。「法のような枠組みが重要」と考える割合が最も高かったのは、セルビア(90%)、ハンガリー(88%)、コロンビア(88%)、南アフリカ(86%)でした。また不賛同傾向が最も高かったのはブラジル(12%)、サウジアラビア(11%)、トルコ(11%)でした。同様に、調査対象者の72%が「より公正な社会を作るには人権が重要」と感じていました。一方で、この前提に不賛同を示したのは8%のみ、「どちらでもない」は16%、「わからない」と回答したのは4%でした。

さらに、調査対象者の73%が、「人権のようなものが存在している」と信じていましたが、「そのようなものは存在しない」という意見寄りの人も14%いました。また、この問題について「わからない」、あるいは「意見はない」と回答した人が13%いました。「人権は存在する」と考える傾向が最も高かったのは、トルコ(92%)、韓国(87%)、コロンビア(87%)、中国(85%)でした。これに対して不賛同傾向が最も高かったのはポーランド (29%)、ブラジル (26%)、ロシア (21%)でした。

「人権」を重要視する割合の方が大幅に高かったとは言え、「人権についてかなりのことを知っている」に賛同した調査対象者は56%にとどまりました。調査対象28か国全体で、38%が人権についてあまり知らないことを認めており、「人権についてはあまりよく知らない」、あるいは「何も知らない」と回答しました。人権について「ほとんど知らない」あるいは「何も知らない」と認める割合が最も高かったのは、日本の国民(65%)でした。これに次いで高かったのはロシア(56%)、ハンガリー(56%)、メキシコ(53%)、スペイン(52%)です。対照的に、トルコ(79%)、南アフリカ(76%)、マレーシア(73%)の調査対象者のおよそ4分の3が「人権についてかなり多くを知っている」と回答しています。

国連の世界人権宣言には、普遍的保護の対象となる、全ての国の全ての人のための基本的人権が一式、定義されています。今回の調査では「国連によって定義された人権を選択肢の中から選ぶ」という設問がありました。世界人権宣言の人権のうち、少なくとも各国の調査対象者の半数以上が「人権」と認めたものはたったの7つしかないことが判明しました。ここでも、知識不足が露見したようです。また、国連の世界人権宣言に含まれていない権利を間違って選択しているケースもありました。そして、その割合は決して少なくありません。

生活における人権関連法の有効性について信頼があるかどうかには大きな隔たりがあることがわかりました。「人権を守る法によって生活にプラスの影響がもたらされる」と考える人の割合は53%でしたが、「法による影響はマイナスである」と回答した割合は7%、「何の変化もない」は31%、「よくわからない」は9%でした。「人権関連法によってプラスの影響がもたらされる」と考えられる傾向が高かった国は、韓国 (75%)、中国 (70%)、トルコ (69%)、インド (69%)、コロンビア (69%)でした。一方、「人権を守る法があっても生活に何の変化もない」と考える傾向が高かったのは、日本 (54%)、セルビア (50%)、イタリア (48%)、ドイツ (45%)でした。注目すべきは、アルゼンチンとブラジルにおいては、それぞれ12%が「このような法によってマイナスの影響が生じる」と回答したことです。

誰が得をするのか

世界の人々の多くは、人権保護を行うことでいったい誰が得をするのかを引き続き疑問視しています。

  • 世界の調査対象者の65%が「人権を不当に利用している人がいる」に賛同を示しています。一方で、「そう思わない」は10%、「どちらでもない」は19%、「わからない」は6%でした。賛同傾向が最も高かったのは、コロンビア (78%)、南アフリカ (78%)、ペルー (78%)、メキシコ (78%)、セルビア (76%)でした。その傾向が最も低かったのはベルギー(44%) とスウェーデン(47%)でした。

  • 37%は「自国で人権によって得をしている人は、犯罪者やテロリストなど、人権を与える価値のない人だけである」に賛同しています。31%はこれに賛同しておらず、「どちらでもない」が26%、「わからない」が7%いました。賛同傾向が最も高かったのはブラジル(60%)、ペルー(60%)、インド(53%)でした。一方、最も低かったのは日本(16%)、アメリカ(22%)、カナダ(23%)でした。

すべてを考慮してみると、世界の調査対象者の50%は、「人権は、日々の生活の中では自身にとって無意味だ」という概念を否定しましたが、残りの半数はこの概念に「賛同する」(19%)か、「どちらでもない」(25%)、「わからない」(6%)と回答しました。

言論の自由、生存権

28の選択肢(国連の世界人権宣言で言及されている権利を全てリストアップしたわけではないが、ほとんどを掲載)から、守られるべき人権として最も重要なものを4~5つ選ぶ質問では、最も多く選択された権利は「言論の自由」(32%)と生存権(何人も、他人の生命を絶とうとする行為に及んではならない)(31%)でした。 その後、自由である権利(27%)、法の下の平等(26%)、差別の排除(26%)、思想・宗教の自由(25%)、身体の安全 (24%)が続きました。

28か国の調査対象者の10%以上の人が言及した他の権利は、以下の通りです:
子供が無償教育を受ける権利(20%)、奴隷・強制労働の禁止(20%)、無償、あるいは低料金で医療を受けられる権利(20%)、迫害からの避難、あるいは、非人道的・品位を落とされるような扱いを受けない権利(19%)、プライバシーの権利(19%)、裁判を受ける権利(18%)、労働の権利・同一価値に対して同一の報酬を受ける権利(18%)、選挙権(17%)、相当な生活水準を得る権利(14%)、推定無罪の原則(11%)、財産の権利(11%)

グローバルの平均と比較して、特定の人権により重きを置く国もあります。(これに関する全詳細については、フルレポートをご覧ください):

  • グローバル平均(32%)と比べ、言論の自由が、優先度の高い権利として捉えられていた国は、スウェーデン (45%)、ペルー (43%)トルコ (43%)、ドイツ (42%)

  • 生存権(何人も、他人の生命を断とうとする行為に及んではならない)が重要視されていた国はコロンビア(グローバル平均31% vs. 同国60%)。同国でならんで重要視されていたのは、子供が無償教育を受ける権利(グローバル平均20% vs. 36%)

  • 韓国で最も重要と見なされていた権利は、次の3つ---法の下の平等(グローバル平均26% vs. 同国44%)、自由(グローバル平均27% vs. 42%)、差別の排除(グローバル平均26% vs. 40%)
  • 思想・宗教の自由が特に重要視されていた国はブラジル(グローバル平均25% vs. 同国では39%)。同国でならんで重要視されていたのは、身体の安全(グローバル平均24% vs. 38%)
  • アメリカでは武器携帯の権利が重要視。グローバル平均で3%、また、その他の国は5%未満だったにもかかわらず、同国では15%

国連は、人権関連の使命を負う組織の中では、認知度が最も高い組織。全ての組織が人権を守るという点で、有効な仕事を全うしていると捉えられている

人権を守るとことに注力している組織が数ある中、世界の調査対象者の多く(72%)に知れわたっていた組織は国連だけでした。とは言え、国際赤十字連合(49%)とアムネスティ・インターナショナル(48%)の2つの組織はどちらも、調査対象者の約半数に知られています。そして、国際人権連盟(27%) 、国境なき弁護士団 (24%)、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(22%) も、全対象者の4分の1に、その名が知れていました。

どの組織についても、その名を知っている人の大多数が、いずれも人権を守るという点で有効な仕事を全うしていると捉えていました。中でも国際赤十字連合(ICRC)は、67%からプラス評価を得ています。

イプソス・ナレッジセンターのディレクターであるYves Bardonは、「世界の人々が一番守ってほしいと考えている人権は、言論の自由、思想・宗教の自由、そして平等の権利でした。これら3つは、最も基本的な権利と捉えられているものの、同時に普遍性が最も低い権利でもあることがわかりました。この調査結果には、各国特有の歴史や、置かれている状況、個人の脆弱性に関する人々の感覚、人権が実質的に存在しない場所、人権が最近生まれた場所、人権が十分に守られていない場所、そして、政府の動きから独立した形で個人の態度を表現できる(あるいは、できない)場所での生活経験の有無が映し出されています。」と述べています。

この調査はIpsos Global Advisorが考案し、世界28カ国(アルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、チリ、中国、コロンビア、フランス、ドイツ、イギリス、ハンガリー、インド、イタリア、日本、マレーシア、メキシコ、ペルー、ポーランド、ロシア、サウジアラビア、セルビア、南アフリカ、韓国、スペイン、スウェーデン、トルコ、アメリカ)で実施したものです。ベルギーとスウェーデン以外の各国の調査結果はヒューマン・ライツ・ウォッチの2018年度年次レポートに掲載されています。
アンケートは5月25日~6月8日にわたり、23,249人の16~64歳(カナダおよびアメリカでは18~64歳)を対象にイプソス・オンラインパネルシステムを利用して実施されました。
アルゼンチン、ベルギー、チリ、コロンビア、ハンガリー、インド、マレーシア、メキシコ、ペルー、ポーランド、ロシア、サウジアラビア、セルビア、南アフリカ、韓国、スウェーデン、トルコでは各国500人以上、その他の国では各国1000人以上が対象となりました。
データは最新のセンサスデータを基に人口構成比に合わせて加重しています。
 
 

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