ワールド ラグジュアリートラッキング: “ラグジュアリー”の価値を再構築する

ワールド ラグジュアリートラッキングはイプソスの世界のラグジュアリー市場に関する画期的な調査です。毎年この調査で、世界各地域のさまざまなトレンドが浮き彫りにされ、ブランドが消費者の期待や各地の文化を理解するために役立てていただいております。最新のウェーブでは、世界全域の新ラグジュアリー経済で戦略的重要性が高いと考えられている「The Great East 」の5か国(中国、香港 、韓国、日本、ロシア)がカバーされています。

ラグジュアリーの価値の再連携と再構築
マインドフルな快楽主義の出現

ラグジュアリーな体験は永続性や心の平静という視点で生きることの中にあります。強制的かつ熱狂的な消費主義が繁栄した日々は過ぎ去り、「マインドフルな快楽主義」が出現してきました。ラグジュアリーから連想されるカテゴリーは、もはやハンドバッグや時計だけに限ったことではなくなっています。新しい注目分野は宝飾品と旅行です。目に付くところではこのような価値の再構築が進んでいますが、我々はその先を見据え、その裏側で進んでいる日常の喧騒や悩みから隔絶されたいというニーズにたきつけられた新しい願望の識別をスタートすることができます。クールで安らぎを感じられるラグジュアリーで「いま、この時」を楽しむことが” ご褒美“となっているのです。

今日の情勢は、逆説的な価値の組み合わせ(自己中心性と帰属意識、遺産と感覚、強烈と鎮静)です。イプソスはこの動きを紐解き、「Great East」の富裕層の期待がわかる3つのトレンドにまとめました。

私、私自身、そして私たち

自己啓発ツールとしてのラグジュアリー、しかし常にコミュニティと関連性がある

Infographie

人の個性のあらゆる面を表現する方法とするして、ラグジュアリーを私有する傾向がアジアでは特に顕著に見られます。私有は個々に行える行動(調査対象の富裕層の87%はラグジュアリーブランドに対し個人情報を尊重・保護することを期待しています)であり、より法定の範囲内に収まりやすい行動でもあります。消費者の79%が社会的な目印と捉えている高級品は、特に女性の間で、個人的な地位を向上させる役割を果たしています(昨年の調査から10ポイント増)。中国人消費者は、その他の地域の富裕層よりも、ラグジュアリーを私有していることを示す必要性を色濃く表しています。女性の富裕層の台頭戸ともにこの傾向が明らかになっています。中国ではマセラティの売上げの40%は女性富裕層に占められており、さらには最も価格帯が高いパワフルなモデルが選択されています。ブランドは女性だけのためのVIPイベントの数をますます増やすなど、性別をもとにしたコミュニケーション手法を展開しています。

富裕層は2015~2016年のころよりも、価格志向ではなくなり(-24ポイント)、ラグジュアリーを自身のユニークさと個性を表現する手段として考える傾向が高まっています。この個性化を求める高まり(+11ポイント)は、特にミレニアル世代(86%)で顕著に表れています。また、シニア世代でもこの傾向がかなり加速しつつあります(+16ポイントで74%)。自身に影響を与える要因として最も主要なものは、相変わらず身内(家族や友人、44%)となっています。とは言え、富裕層では、以前と同様に、広く心を開く姿勢を維持しています。特に中国の消費者は、海外旅行に出かけたときに最新のトレンドを熱心に探求しています (91%)。.

伝統的にラグジュアリーに関連付けられてきたファッションは、依然としてこの地域の富裕層が最も多く購入するカテゴリーとなっています(54%)。しかし、ラグジュアリー関連の細かいカテゴリーについては、地域特有の文化的特殊性があることから、地域ごとに特徴が見られます。中国の富裕層は、とりわけ最先端の美容製品を好んでいますが、韓国では高級サングラスに人気があり、ロシアでは、上等なワインやスピリッツが大いに求められています。ブランドの中には、たとえばドルチェ&ガッバーナ(D&G) のマトリョーシカ・カプセル・コレクション(取り扱いはモスクワ店限定)のようなローカル限定のコレクションがあるために、特定の市場で高く評価されているものもあります。

個性が称えられる一方で、個人のアイデンティティ構築に、コミュニティが重要な役割を果たすという概念が社会動学に刻み込まれています。コミュニティ内のブランドを象徴するモデルのニーズは必須で、パス・トゥ・パーチェスにおけるインフルエンサーの役割の重要度は安定的に伸び続けています(国際的なスターの影響度は+13ポイント、ソーシャルメディア上の人々の影響度は+9ポイント)。このような現象は当初、ミレニアル世代に多く見られましたが、現在ではシニア層にも波及し始めています。中国では、2018年8月にマリクレール誌がシニア世代のインフルエンサー(平均80歳)を特集するキャンペーンを行いました。この特集は絶賛され、その号の特集は72時間で60万回視聴され、これに関する好意的なインタラクションが行き交いました。

カジュアルな物質主義

よりクールで、より意識的で、より気配りのある物質主義

Infographie

アジア地域とロシアの富裕層は、西洋人に比べて大いに実用性を重んじ、ラグジュアリーに対し非現実的な見方をしない傾向にあります(2017年の調査結果)。消費者は、正当な理由なく度を越えていると見做せば、それがラグジュアリーであっても批判的な姿勢を見せることにためらいはありません(姿勢についてはトピックモデリング*の調査結果で取り上げています)。

ラグジュアリーへの欲求は、ロシアで下降が見られる(2016年と比較して-19ポイント)ものの、引き続き安定しています。しかしそれはよりカジュアルな方向に向かっており、特に高級品の消費に対して比較的控えめな態度の富裕層が多い中国ではその傾向が顕著です。彼らを満足させるためには、ブランドは彼らが品質やサービスに見出す価値に寄り添う必要があります(重要な価値は定量調査とトピックモデリング*の自由回答で出てきています)。

今日、信頼は製品の具体的な特性を通じて明確なものになっています。ブランドはそのブランドの信頼性(90%)と非常に高い品質(90%)を保証できなくてはなりません。調査対象者は逃避感(15項目中13位)よりも卓越性を求めています。ただ、日本はこの地域の中では例外で、ラグジュアリーが生み出す逃避感に対して感度が高く、魅力に感じる傾向が高くなっています。

明確な証明のニーズは、オンラインで高級品を購入する少数の対象者に見られます。製品やサービスをこれから所有しようとする感覚(76%)を通じて彼らに納得してもらう必要性が最初の障壁となります。一方で中国の対象者はオンラインに強い関心を示しており、62%がオンラインで購入しています(この地域の平均は37%)。

この地域は数年前、熱狂的な消費が見られるところとして特徴付けられていましたが、現在はその価値の変化が見られます。The Redress Design Award(香港の既製服セクターにおける持続可能なイノベーションを称えるコンペティション)はそのわかりやすい例です。また日本では、倫理と環境に関する問題に取り組むことをブランドに対して期待する対象者は19%に上っており、これが選好につながる引き金の第2位にランクインしています。

高い流動性

消費者の満足度を高めるために流動性と強度を再度連携させる

Infographie

富裕層は何よりもまず、時間の無駄を極力少なくしたいと望んでいます。「流動性」が重要な価値と見なされており、それがブランドにとっての重要な課題です。消費者は、製品をオンラインで選択してそれを店舗で受け取るという、ウェブ・ツー・ストア(web-to-store) の体験をますます求めるようになっています(年齢の高い富裕層で顕著に増加:2015-16年から+9ポイント)。

オンラインでの購入(37%)は通常、合理的(種類がより豊富、より安い価格で)であることが動機となっています。一方で現在は、落ち着いてショッピングができることや面白いからなど、感情的なドライバーもオンラインでの購入をさらに促進しています。近年の大きな成長に貢献したのはこの2つの期待です。

高級ブランドショップはシームレスなサービスを提供しているというだけでなく、様々な理由から人に好まれる購入場所となっています。ブランドショップは富裕層が正真正銘の知覚的体験ができ、格別で(85%)、カスタムメイド(82%)のサービスを味わうことのできる場所であり、始終そのブランドの世界観や伝統に浸ることのできる場所なのです。

消費者が実店舗での体験を好むのは、ショッピングに関する案内やサポートを受けられる(2015-2016年から+18ポイント)からです。店舗スタッフの善意や彼らとのプラスの人間関係(90%)、快適さ(89%)も富裕層が求めている重要な要素です。

ユーラシア大陸の富裕層は欲深い旅行者だとの悪評がありますが、イプソスの調査で明らかになったのは、彼らが海外でのショッピングにどんどん資本を投下するようになって、進化を遂げているということです。77%の調査対象者が過去2年間に海外旅行をしたと回答しており、中国では80%、香港では96%を記録しました。そして、今やショッピング自体が、旅行体験に内在する本質的な要素となっているのです。中国では93%、ロシアでは63%の人々が、旅行の目的地に到着する前に、買わんとするものを明確に把握しています。免税品が購入できるとなれば、各回の旅行を最大限に楽しめます。このように人の移動が増加したことから、ブランドが人々の移動についていくことで、新しい活動の場が生まれました。グッチ(Gucci)はこの流れに乗って、眼鏡の分野で新たなサービスを提供しました。上海などの空港カウンターで、アプリのカスタムフィルターで写真を撮影し、インスタグラムやウィチャット(WeChat)でシェアすることができるものです。

 

消費者とラグジュアリーの関係は変化しています。以前からある設問に対する回答から、考え方が多様化していることが浮き彫りになりました。また、イプソスの人口知能(AI) が行った画像分析によって、これまで以上に自然な形でありのままの姿が表されています。ラグジュアリーはもはやブランド好きな人々から支持されているだけではありません。そのオーディエンスは広がり続け創造性と本物の価値を受け入れる人々を魅了しています。ラグジュアリーは以前にも増して、自己浄化のためのベクトル、そして自己の成功を称える方法となっていますが、それは高い品質に見合う方法で表現されているのです。

Françoise Hernaez Fourrier, Head of Strategic, Ipsos of France

*この地域の奥深く継続的な文化の変遷を探求するため、WLTは中国、日本、香港、韓国、ロシアのラグジュアリーな富裕層について、5700件の定量調査と新しいトピックモデリング法(5カ国の調査対象者の言葉と写真を分析する)を用いた画期的な手法で調査をしました。

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