電気自動車のダークサイド
電動化は数十年にわたる顧客体験の改善を台無しにする危険性をはらんでいます。
自動車の電動化ブームが過熱しています。ナラティブの多くはこんな風に聞こえます:
- EV時代の到来! 今後2~3年のうちに米国では今よりも多くのEVモデルが登場予定
- 消費者は準備万端! 2022年イプソス・モビリティ・ナビゲーター調査によれば、米国でのEVへの関心は2018年以降4倍以上に
- エンジン車はもはや恐竜! すでに米国の多くの州で販売が禁止に
- 「EV列車に乗り込むか、置き去りにされるか、・・・ひかれるか!」
電動化は最終的にその高邁な約束を果たすかもしれませんが、EV革命は数十年にわたる顧客体験の改善を台無しにしてしまう危険性も秘めています。さまざまな局面で注意すべき兆候が現れています。
注意その1:公共充電スタンドにおける試練
公共充電スタンドでの体験には多くの不満が残るという証拠が増えつつあります。
- フォーチュン誌は、充電器を設置できるガレージや専用駐車スペースを持たないEVオーナーに降りかかる潜在的なフラストレーションを記事にしました。
- ブルームバーグは、EV充電インフラ整備の深刻な問題を浮き彫りにする調査結果を発表しました。
- 15万人のフォロワーを持つEV専門YouTubeチャンネル「Out-of-Spec-Reviews」は、フォロワーから報告された充電体験をまとめた動画を公表し、 最大規模のEV充電網における問題や故障の発生率の高さを指摘しました。
劣悪な充電体験の大部分は充電網に起因するとはいえ、自動車メーカーにとっても現実的な危険があります。最近のイプソスの分析によれば、EVオーナーが公共充電ステーションで悪い経験をした場合、自動車ブランドに対する推奨意向は50%以上も低下します。言い換えると、現在、充電体験は多くの消費者にとってペインポイントであり、自動車の体験価値を損なうものなのです。
これは充電に対する不満の氷山の一角にすぎないかもしれません。ハードウェアは問題なく動作すると仮定し、新しくEVオーナーになった人が今の公共充電インフラを使いこなすまでに、やらなければいけないことをすべて考えてみましょう。
- メーカーによって異なりますが、消費者が公共の充電器を見つけて利用するには、自分のEVに搭載されている技術に加えて、幾つかのスマホアプリを使いこなさないといけません。
- 利用したい充電ネットワークごとの、別々のアプリ
- 近くにある充電ステーションを検索するためのサードパーティ製アプリを、少なくとも1つ
- 利用可能なすべての充電オプションを正確に表示してくれる(かもしれない)自動車メーカーのアプリ
- そしておそらく、スマホ決済アプリ
一旦充電器を見つけても、今度は充電器が作動しなかったり利用できなかったりします。支払いにアプリを使わなければならないスタンドもあれば、クレジットカードをスワイプして支払うスタンドもあり、支払い方法が一貫しておらずうんざりすることでしょう。
新しくEVオーナーになった人が、遅刻しそうになりながら急いで車を充電しなければならない時、たった一つの電子を車に送り込むのにまず新しいアプリをダウンロードし、アカウントを作成、そしてアプリに支払い方法を登録しなければならないと気づいたとき、どれほどの怒りが爆発するか想像に難くありません。もしその人が手元に携帯電話を持っていなかったら? 財布を持っておらず、クレジットカード番号を暗記していなかったとしたら? 普段Google PayやApple Payを使っていなかったら? 充電器自体が完璧に機能するとしても、フラストレーションがたまる可能性は高いでしょう。
注意その2:自宅での充電体験
EVオーナーがEVに期待する最も大きなメリットのひとつは、自宅で充電できることです。しかし、業界の人たちが言うほど物事は単純明快ではありません。
まず、家庭で効率良く充電するには「レベル2」の充電器が必要になります。「レベル1」では充電に時間がかかりすぎ、電池残量が少ない状態から80%まで充電するのに24時間以上かかったりします。
次に、レベル2家庭用充電器の設置は必ずしも一筋縄ではいきません。まずは充電器を設置する場所を確保しなければなりませんが、通常はガレージか屋根付きのカーポートになります。マンションやアパートに住んでいるオーナーは運が悪いとしか言いようがありません。この問題を解消すべく居住者用駐車場にもレベル2充電器が設置されつつありますが、必要なときに空いている保証はありません。
さらに、専用の駐車場があったとしても、時間と費用がかかる可能性があります。充電器そのものだけで通常数百ドルかかり、高いものでは1,000ドルします。これはまだ序の口です。あなたのガレージにはレベル2充電器をサポートするに適した配線がないかもしれません。この場合は電気工事業者に電気パネルを更新してもらう必要があります。新しい住宅であれば240Vの接続は容易で、500ドルから1,500ドルの費用に収まりますが、古い住宅ではより大規模な電気工事が必要となり、数千ドル以上かかることもあります。
最後に、購入するレベル2充電器を選ぶという決して簡単ではない仕事が残っています。Amazonで検索してみると、15以上のブランドがこのタイプの充電器を販売しており、各ブランドがそれぞれ複数のオプションを提供していました。このような事態を想定していない消費者は、こうしたプロセスに苛立ち、追加にかかる費用に憤慨するでしょう。
注意その3:品質とサービス面の課題
EVは理論上、従来の自動車よりも信頼性が高いと言われます。故障が少なく、従来の意味での整備は必要ない、といった具合です。しかし、残念ながら現実はまだそうではありません。イプソスでは多くの自動車メーカーのために世界各国で品質トラッキング調査を実施していますが、EVは問題がないとは言い難いことがわかっています。
イプソスの調査結果はクライアント独自のものであるため公表できませんが、同様のデータは他にも存在します。コンシューマー・レポートやJDパワーも、現在のEVの品質と信頼性は概して低いと報告しています。
- コンシューマー・レポート(2022年・秋)「EVは業界で最も信頼性の低い自動車・トラックのひとつである」
- JDパワー 2022 IQS(2022年・春)「BEVとPHEVは平均より多くの問題がある」
さらに困ったことに、EVには通常、各メーカーが提供する最新かつ最高のテクノロジーと機能が搭載されています。これまでも、新しい技術や機能は消費者の苦情を増やす要因となってきました。しかし、だからといって言い訳にはなりません。車両トラブルが多いということは、混乱し不満を抱く顧客がそれだけ多くいることを意味するからです。
最新のEVに搭載されている新しいテクノロジーは、単に人々を混乱させ、「使いにくい」という苦情を生むだけでなく、暗い側面を持つ場合もあるようです。最もわかりやすいのは最近のテスラの事例です。テスラはFSD(Full Self-Driving:レベル2の運転支援)に関連する「安全リスク」に対処するため、約40万台ものリコールを発表しました。
販売店がEVのサービスに苦戦している証拠もあります。JDパワーは、毎年恒例の米国自動車サービス顧客満足度調査(CSI) で満足度の低下を公表し、その原因はEVにあると指摘しています。
消費者にとって比較的新しい苦痛の種が「OTA(over-the-air)アップデート」です。今日のコネクテッドカー、特にEVの潜在的な利点のひとつは、メーカーが車両に内蔵されたインターネット接続を介して、つまり無線(over the air)で、車両に直接アップデートや修正を送信できることです。理論的には、これらのアップデートは問題を修正し、新しい機能を有効にし、さらには新しいEVの性能や航続距離を向上させるものです。実際には、OTAアップデートは消費者に混乱と不確実性をもたらし、次のような疑問を抱かせています。
- アップデートがあるの?どうすれば分かる?
- そのアップデートは何をしてくれる?
- インストール方法は? 自分でインストールするの? それとも自動的にインストールされる?
- うまくいったの? どこが変わったの?
問題はほかにも・・・
- 航続距離に関して、EVは内燃車とまったく異なる挙動を示します。消費者は何十年にもわたる経験から、高速道路運転での最大航続距離を期待するようになっています。EVはそうではなく、のろのろ運転で最大航続距離を実現します。あなたが「航続距離300マイル」の新型EVでドライブに出かけて、高速道路での航続距離が大幅に短いことに気づいたとき、どんなリアクションをするでしょうか。
- 充電速度もトリッキーです。自動車メーカーはしばしば、20%から80%まで充電するのに必要な時間を宣伝しています。しかし、ドライブ旅行中に期待していた300マイルの航続距離まで届かないとわかり充電を100%にしたい場合はどうでしょうか? 81%から100%までの最後の20%の充電は、よく公表されている20%から80%の充電よりも時間がかかることが多いため、ここでもまた予想外のEVの挙動にイライラさせられる可能性があります。致命的ではないけれど、間違いなくイライラします。
- EVはそのハイテク性ゆえ、次のブレークスルーが来た次点で陳腐化してしまう可能性があります。購入時に最先端だった3年落ちのEVが、急に技術が時代遅れになり価値が急落してしまうなら、消費者は気の毒です。
- 少なくとも航続距離や充電に影響があるという意味で、EVは寒さが苦手です。それを知らない寒冷地の消費者は、突如として航続距離が大幅に短くなっているのを知ってショックを受けるかもしれません。
こうした理由から、自動車メーカーや充電インフラを手掛ける企業は、電動化ブームに黙って乗っかっているわけにはいきません。むしろ、EVオーナーの期待や体験を理解し、ペインポイントを特定し、それを解決することに一層注力しなければなりません。「フィールド・オブ・ドリームス」のようなアプローチ(それ作れば、彼らはやって来る)ではうまくいきません。
EVの波を積極的にマネジメントすることは極めて重要です。そうしなければ、お粗末なEV体験のせいで顧客満足度が著しく低下し、自動車メーカーは市場シェアを落とす危険性があります。
イプソスは、数十年にわたり世界中の自動車関連企業が抱える問題の特定と解決を支援してきた経験を活かしてサポートをいたします。品質やCXのトラッキングのような従来型調査に加え、新しいEVオーナーが直面する潜在的な問題を特定し、その解決を支援することを目的とした、いくつかの新しいサービスも開発しています。
イプソスのサポートは充電面の課題から自動車品質までを網羅しています。詳しくは以下のリンクをクリックまたは担当者までお問い合わせください。
- Ipsos EV Charging Station Audits:EVを持つミステリーショッパーが公共充電ステーションを体系的に診断し、ステーションの可用性、信頼性、パフォーマンス、機能を評価する調査。
- EV Atlas:EVオーナーの充電行動を追跡する地理分析ツール。
- Ipsos OTA (over the air) Update Audit:OTAアップデートのリリース後に迅速なフィードバックを提供する調査プログラム。
- Ipsos Navigator:世界中の消費者の意識と行動に焦点を当てた毎年恒例のシンジケート調査。